「ホワイトすぎるから辞めます」って本当? 若者の退職理由に潜む、もうひとつの意味スピン経済の歩き方(6/6 ページ)

» 2025年05月07日 12時30分 公開
[窪田順生ITmedia]
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バイアスがかかるとどうなるか

 本来、実像に近い「トヨタ像」を得ようとするなら、経営陣や現役の社員、そして「元社員」の両方の視点が必要になる。しかし、日本では一方の声ばかりが取り上げられがちだ。しかも、「元幹部・元社員」が述べたことのほうが、正しいと評価されがちなのだ。

 その最たるものが、「旧統一教会報道」だ。筆者はこの2年半あまり、教会の内部を取材して、教団幹部や100人以上の現役信者たちに話を聞いてきたが、マスコミ報道とのあまりの違いに驚いている。教団がうそをついているとかどうこう以前に、基本的な数字や事実などが異なっている。

(出典:ゲッティイメージズ)

 なぜこんなことになるのかというと、マスコミは基本的に「元信者」にしか話を聞いてないからだ。彼らが誤った情報を流していると言いたいのではなく、かなり昔に教団から離れているので情報が古く、しかも教団への憎悪というバイアスがかかっているのだ。

 このように「組織から離れる(離れた)人の語ること」の扱いというのは、非常に難しい。筆者が危機管理対応をしている企業では、退職者が元上司を訴えるなどのトラブルにもかかわることがある。こうした「元社員」は訴訟戦略の一環として、記者会見などで元勤務先の腐敗を声高に訴える。

 しかし、事実を確認してみると、それが単なる誤解であることも少なくない。それでも、マスコミは「元社員の語ること」のほうに肩入れをして、「企業側はうそをついている」と決め付けるような報道をするケースも少なくない。

 この「元社員はうそつかない」といった日本社会の強烈な思い込みこそが、「ホワイトすぎるので辞めますという若者が増えている」というニュースの根底にあるような気がする。

 いずれにせよ、会社を辞める若手社員が去り際に残した無責任な言葉に右往左往するのではなく、今残っている社員たちの言葉に耳を傾けて、働きやすい環境をつくっていったほうが、よほど有意義ではないのか。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。窪田順生のYouTube『地下メンタリーチャンネル

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受


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