しかし、飽和状態に見える日本でも、新たな超高速配送のサービスが芽生えつつある。食品スーパーの超高速配送サービスを展開する「ONIGO(オニゴー)」(2021年創業)だ。日本初の超高速配送専業スタートアップとして、外資が続々と日本市場から撤退していく中で、設立4年目にして東京、大阪、他9県に配送エリアを展開し、サービスエリアを急拡大させている。
注目すべきは、大手企業との提携戦略である。イトーヨーカドー、いなげや、アオキスーパー(名古屋)と提携し、当日の高速配送を担う。2025年2月からはイトーヨーカドー93店舗のネットスーパーのサービス提供を開始した。また、配送はWolt、出前館、Uber Eatsとも提携し、配送を委託している。食品スーパーにとって負担の大きい配送サービスを担い、フードデリバリー企業には食事の時間帯以外の配送パートナーの稼働率を上げる配送依頼を提供する。
ではONIGOのメリットはなんだろうか。実はONIGOは自前のダークストア(小規模の配送拠点)をほとんど持っていない。提携先の大手スーパーの店舗の一角に拠点を構え、賃料を負担する代わりにスーパーの取扱商品を超高速配送する。この低コストかつアセットライトな拠点拡大戦略により急成長を遂げているのだ。
ONIGOのビジネスモデルは、既存の日本の小売や配送サービスとの共存を実現し、提携による事業拡大を通じてシェア獲得を目指す。
海外の超高速配送の成功事例であるGopuffとSwiggy、そして日本で独自の展開を見せるONIGOの事例から、超高速配送ビジネス成功のポイントが見えてくる。それは、ターゲット市場に特化したサービス提供、市場理解に基づいた拡大戦略、そして技術投資による競争優位性の獲得の3点である。
Gopuffは学術都市の学生という明確なターゲットに、Swiggyはインドのフードデリバリー市場と未発達な小売市場という特性に、ONIGOは日本の都市部におけるスーパーの即配ニーズと、市場環境とユーザー課題に特化したサービスを提供することで、顧客のニーズを捉え、事業を成長させてきた。
また、エリア拡大においては、単なる物流需要だけでなく、ターゲットユーザーの存在を重視し、ユーザー密度や買い物困難者の分布などを考慮した戦略が重要となる。GopuffはZ世代の人口密度が高い学術都市に、Swiggyはフードデリバリーのネットワークを生かせる都市部に、ONIGOは提携スーパーの存在を軸にアセットライトな地域拡大を進めている。
さらに、AIなどの技術を活用し、独自の配送ネットワークや効率的なピッキングシステムを構築することで、競合との差別化を図り、競争優位性を確立することが重要となる。Swiggyは独自の配送網を確立した後に3rdパーティー(地元の配送業者)を取り込むことで配送網を強化している。ONIGOは提携パートナーとAPI連携でシームレスにつながる独自システムが共存を可能にしている。
今後の日本における超高速配送の展望だが、ONIGOの事例が示すように、日本独自の市場環境に適応したビジネスモデルが成功の鍵となる可能性は高い。コンビニエンスストアの多さや中食文化といった既存のインフラや消費行動を考慮し、それらと競合するのではなく、補完し、共存するような新しいサービスだ。
大手小売や既存の配送プラットフォームとの提携を通じて、それぞれの強みを生かしながら、特定のニーズに応える超高速配送サービスは、今後日本市場で成長していく可能性がある。特に、高齢化が進む日本においては、スーパーの食材の即配ニーズは今後ますます高まるだろう。
ただし、郊外への展開における配送効率の課題や、提携による収益性の低下など、ONIGOが克服すべき課題も存在する。また、国内の競合にはYahoo!が運営するクイックマート(出前館と提携)や楽天即配マートもいる。
日本のラストワンマイル配送市場は、まだグローバルな巨大プレーヤーを生み出せていない。しかし、ローカルなニーズに最適化したビジネスモデルには可能性がある。消費者の課題に真摯(しんし)に向き合い、大企業の資本やネットワークを活用しながら、日本全国、さらには世界へと事業を展開する日本企業がグローバルな舞台で存在感を示す日も来ることを期待したい。
グロービス経営大学院の産業創生・人材育成を研究する機関であるテクノベート経営研究所副主任研究員。
三井住友銀行投資銀行部門を経て、SMBC日興証券で日本経済エコノミストとして国内外の機関投資家(債券市場・株式市場)向けにレポート執筆。ユーザベースに入社後は、SPEEDAアナリストとして調査・分析・執筆、新規コンテンツ開発の立ち上げに従事。
また、経済メディアNewsPicksの編集部で記者・編集者として情報発信。2023年より現職。 東京大学経済学部卒。
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