「スタバ配送ロボ」が街を爆走!? 実はこれだけ広がっている「配送自動化」の世界グロービス経営大学院 TechMaRI 解説(1/3 ページ)

» 2025年04月16日 07時00分 公開
[中村香央里ITmedia]

中村香央里

グロービス経営大学院 テクノベート経営研究所(TechMaRI) 副主任研究員


 人手不足にEC配送量の増加、さらにトラックドライバーの労働時間を制限する2024年問題──。日本が迎える物流危機について、数年前から報道で頻繁に伝えられてきた。2025年の今、物流危機への対応は進んでいるのだろうか。

 人手不足の解決策として、人の手を介さない配送の「自動化」には、かねてより注目が集まる。今回は配送の自動化を実現する配送ドロイドとドローンの2つに注目したい。

「歩く弁当箱」に「空飛ぶ荷物」──自動化を実現する2つの配送方法

 配送ドロイドとは、配送ボックスに車輪のついた小型の配送ロボットのことだ。大量の荷物は運べないものの、安価に利用できるため、フードデリバリーなど短距離の小口配送に適している。公道を走行するため、道路交通法の対象となるほか、最大速度や最大重量が規制で制限される。また、緊急時に対応するため、現状では遠隔でオペレーターが操作・監視をする運用が主流だ。

配送ドロイド(写真はイメージ、ゲッティイメージズより)

 ドローン配送は陸上でのアクセスが困難な場所へスピーディーかつ効率的な配送が可能だが、アイデアから実装まで長らく遅延していた。

配送ドローン(写真はイメージ、ゲッティイメージズより)

 理由はいくつもある。飛行するドローンのバッテリーは小型軽量なものに限定されるため、積載量も軽量で短距離配送に限定される。その他、高コストであること、道路交通法よりもはるかに厳しい各国の航空規制、商用化のための技術改良(騒音、飛行速度、航続距離、さまざまな気象条件への対応)、充電設備やドローン航空管制システムのインフラ構築などだ。そのためドローン配送の特徴と最も適合した、医療用途での実用化が中心だった。

 規制や技術の課題を乗り越え、海外では巨大IT企業が競争力強化のため、配送ドロイドやドローン配送に先行投資し、市場全体をけん引している。例えば中国ではアリババや京東(JD.com)、美団が将来の収益を見込んで物流の自動化に投資し、米国でもWing(Alphabet子会社)がドローン配送網を構築しようとしている。関連するスタートアップも数多く誕生しており、配送の自動化は実現に向かっている。

 日本はというと、なかなか進まないイメージがある。しかし実は、日本でも法整備の進展に伴い、実証が一部で本格化している。まずは日本の現在地から見ていこう。

なぜ遅い? 日本の配送自動化を阻む3つの壁

 日本では、楽天が2019年から大学キャンパスや公園内といった私有地で、配送ドロイドよりサイズの大きい配送ロボットでの実証を試みている(※1)。公道では日本で初めて1年超のサービス実証を行ったが、配送ロボットには監視者が常時付き添っていた

※1:参考「千葉大学でのロボット配送サービス 一般学生に向けた屋外での配送実験を実施」

 ドローン配送では日本郵便やANA、楽天などが自治体と協力して山間部や離島での実証実験に取り組んでいる。実証実験が進む中で、日本でなかなか商用化が進まなかった理由は何だろうか。

1.規制の壁

 配送ドロイドはそもそも公道を走行できなかった。2023年4月の改正道路交通法施行により、遠隔操作型の公道走行が解禁されたばかりだ。それ以前は区画を限定した実証実験の個別認可だった。配送ドローンも、2022年末にようやく人口密集地域における目視外無人飛行(レベル4)が可能になった。

 つまり、規制は社会実装への第一歩を踏み出したところだ。政府は地方創生や物流効率化の解決策として補助事業や法整備に積極的な姿勢を示すが、依然として飛行や走行の条件は厳格に制限されており、日常利用は広がりにくい。具体的な制度整備や拡張には、まだ時間がかかる。

2. 既存の「人ありき」配送網が高品質

 日本の物流ネットワークは人手を前提に細部まで発達している。

 安く・早く・正確で、人への依存度の高さが弱点ではあるものの、完成度の高いシステムだ。人手不足が深刻化しても、シニア層の活用や下請けネットワークの拡充など人海戦術でこれまでしのいできた。

 また、配送ドロイドを導入する場合、初期費用やランニングコストの負担が大きいわりに、人手と比較すると積載量や配送ルートに制限があり、労働力としての柔軟性に欠ける。経営効率化などのメリットが見えにくい

3.企業のリスク回避姿勢

 失敗を良しとしない企業体質に加えて、前述した高度な人ありきの配送網があるため、ドローン配送や配送ドロイドの導入に慎重である。たとえ実証実験を始めても、技術リスクや事故リスクを取りづらく、規制緩和後も導入判断に時間がかかる。結果、実証実験は数多くあっても社会実装につながるケースは少ない。

 都市環境も進展速度に差を生んだ。配送需要が大きい都心では、日本の場合、公道が狭く障害物(電柱、段差、駐輪)が多いため、配送ドロイドが走りにくい。

 それでは、海外では商用化がどのように進んでいるのだろうか。

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