商用化の進まない日本だが、2023年以降、前述した法整備の進展に伴い新たな動きがみられる。
例えば、配送ドロイドが公道を走行できるようになった改正道路交通法を受け、パナソニックは神奈川県藤沢市で自動配送ロボット(遠隔操作型小型車)のサービス実証を開始した。
商用サービスの兆しも現れている。2019年から実証を重ねてきた楽天は、2024年11月より東京都中央区で配送ドロイドによる完全無人配送を正式サービスとして開始した。スーパーの食料品を届ける他、スターバックスや吉野家などパートナー店舗を拡大している。配送料は国の支援を受けて1件100円と格安だ。事業を持続するには、支援期間中に顧客フィードバックの反映やオペレーション効率の改善を行い、支援終了後に顧客が受け入れられる適正価格を設定する必要があるだろう。
配送ドロイドは日本のスタートアップZMPや米国スタートアップCartkenの製品を採用している。Cartkenの配送ドロイドは三菱電機が日本市場向けに改良した。Uber EatsもCartkenの配送ドロイドによるデリバリーを、2024年3月から東京で、同年11月には大阪で開始した。
また、配送ドローンについては、国土交通省の委託事業「無人航空機等を活用したラストワンマイル配送実証に関する調査業務」で、2023年度に9事業者が全国9地域でレベル4飛行(人口密集地域における目視外無人飛行)やドローンポート連携、自動配送ロボット連携の実証実験を行い、コスト削減やCO2削減効果を分析するプロジェクトも進められている。
都心の配送では、タワーマンションで日鉄興和不動産、ソフトバンクロボティクスなど4社がロボット配送の有用性を検証した。というのも、人間の配達員が50階建てマンションで30件の配送を行うのに4時間以上かかる。3分の1がエレベーターの待ち時間だが、複数回にわたるセキュリティの解除にも時間がかかる。実用化した場合の配送自動化のメリットは大きい。
このように、日本各地で業界横断のプロジェクトや商用化を見据えた先進事例が相次いでいる。
現在試行を重ねる実証実験では、企業と社会が許容できる安全水準を確保した小規模なサービスで、利用者の信頼と実績データ(位置情報精度、走行データ、段差などの障害情報など)を蓄積している最中だ。今後は歩道環境の整備やドローン航空管制システムを含むインフラの拡充などの都市設計、人ありきの物流から配送の自動化に適応するための構造改革も重要だろう。
法整備は進んでいるが、配送の自動化が進むにはさらなる整備が求められる。
例えば配送ドロイドが該当する「低速・小型ロボット」の公道走行は可能だが、大量の荷物を運ぶ大型・中型ロボットや、中速・高速ロボットで配送能力を上げるには制度の拡張が必要だ。ドローンはレベル4が解禁されたが、飛行ごとに承認が必要で、飛行開始の10開庁日以上前(推奨は3〜4週間前)に申請を要するなど手間も時間もかかる。
人海戦術の物流網では、楽天(EC)やフードデリバリーの取り組みだけでなく、配送業界の構造変革も求められる。宅配大手のヤマト運輸は京セラの中速・中型ロボットで、無人配送の実証実験を行っている。業界トッププレイヤーが、配送自動化に積極的な姿勢を示し続けるかが変革のカギとなる。
ハードルは多いが、日本独自の課題を乗り越えることで、将来的には洗練されたラストワンマイル自動化モデルを構築できる可能性もある。
現状では遅れが指摘される日本だが、各地の実証実験の成果や海外の成功事例から学び、文化とインフラの両面で環境を整えていくことで、日本でも配送ロボットやドローンが当たり前に街を行き交う日常が実現するだろう。
グロービス経営大学院の産業創生・人材育成を研究する機関であるテクノベート経営研究所副主任研究員。
三井住友銀行投資銀行部門を経て、SMBC日興証券で日本経済エコノミストとして国内外の機関投資家(債券市場・株式市場)向けにレポート執筆。ユーザベースに入社後は、SPEEDAアナリストとして調査・分析・執筆、新規コンテンツ開発の立ち上げに従事。
また、経済メディアNewsPicksの編集部で記者・編集者として情報発信。2023年より現職。 東京大学経済学部卒。
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