ここまでは就職氷河期世代の困難に注目してきたが、この世代が抱える問題は、その下の世代にも引き継がれている。先に述べたとおり、安定した職に就くのが難しく収入がなかなか上がらないのは個人の意識の問題ではなく社会の構造変化によるもので、それが是正されない限り解決されないからだ。
東京大学社会科学研究所の近藤絢子教授が著した『就職氷河期世代 データで読み解く所得・家族形成・格差』(中公新書)には、その事実が丁寧に示されている。
近藤教授は就職氷河期の後の「ポスト氷河期世代」(2005〜2009年卒)、「リーマン震災世代」(2010〜2013年卒)について、新卒での就職状況やその後の年収の変化などを分析している。
そこから見えるのは、「ポスト氷河期世代」も「リーマン震災世代」も、新卒で非正規雇用に就く割合が相変わらず高く、卒業後の年収の推移も氷河期世代と変わらないという事実である。
昨今は人手不足と物価高騰を背景に企業の賃上げの動きが活発だ。しかし、この恩恵を受けているのは主に20代から30代前半の世代で、中高年の社員の給与はそれほど上がっていないという報告もある。30代半ばから40代の中にも、就職氷河期世代と同様の生活苦や老後の不安を抱える方が大勢いると見てよいだろう。
つまり、就職氷河期世代をターゲットにした支援はその下の世代にも必要とされている。氷河期世代は「今さら遅い」と憤るかもしれないが、今からでもできることをやるべきだ。
まず、不安定な就労状態や低賃金に苦しんでいる人のために、非正規雇用と正規雇用の間の格差是正は重要である。働き方改革で打ち出した同一労働同一賃金のルールを、より実効性のあるものにしていかなければならない。その中で、非正規社員であっても育児や介護と仕事を両立できる制度づくりの推進も望まれる。また、雇用形態によらず老後の不安が軽減されるような年金制度改革も必要だ。
企業には、それまでの職歴にとらわれずに意欲のある人材を採用してスキルアップの機会を与えていくことや、年齢に関わらず互いを尊重する文化を醸成することで、多様な世代が活躍できる職場づくりを期待したい。
しかし、それでも十分な収入を得るのが難しい状況にある人たちは残るだろう。そうなっても人間らしく生きていけるように、社会保障や福祉の充実が不可欠だ。各政党はそれを真剣に考えているのか、参院選に向けて注目していきたいところだ。
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年より組織に所属する個人の新しい働き方、暮らし方の取材を開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018)。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。
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