さらに一度ルールを破って不当行為に手を染めると、「前もやらなかったのだから、今回もやらなくていいのでは」などと考えて何度も繰り返されるようになり、いつしかルールを守らないことの方が当たり前になってしまうこともあります。
職場にとって最も怖ろしいのは、この「当たり前化」です。
過去に発覚した不当行為の中には、長期間にわたって続けられてきたと考えられるものが少なくありません。
日本大学の重量挙げ部では元監督が10年間でおよそ3800万円を詐取したとされていますし、もっと以前から関与していた可能性があるとする指摘もあります。
いわき信用組合の不正融資は遅くとも2008年には始まっていたことが調査報告書に記載されています。損保ジャパンと旧ビッグモーター社が保険の不正請求を行った事件の調査報告書には、直ちに不適切な癒着につながったとは言えないものの、出向を通じた両社の関係が2004年ごろには始まっていたことが記されています。
不当行為が始まるパターンには、作為型や粗相型や怠慢型といった違いがあれども、長い間にわたって繰り返される中で、どこかで問題視されて軌道修正が行われてもよさそうなものです。それを阻む元凶こそが、当たり前化に他なりません。
いかなる不当行為であったとしても、一度職場の中で当たり前化してしまうと、それを正すよりも維持することの方が正当であるかのように扱われてしまいます。中には行為の誤りに気付いて改めさせようとする社員が現れる場合もありますが、当たり前化した職場では「空気が読めない」「反逆者」――などと評価されてしまい、かえって心理的に追い込まれることになります。
日本郵便の一件では、社員から点呼実施が不適切だと内部通報があったにもかかわらず、事実を裏付ける証拠がないとして是正されなかったとする報道もあります。不当行為が当たり前化した職場だと、改善に努めるより事実を見ないようにしたり、不当ではないと言い聞かせたりした方が気持ちよく過ごせると考える社員が増えても不思議ではありません。
一方、不当行為を正そうとする社員にとっては、こうした空気の職場は極めて居心地が悪いものです。転職などで入社したばかりの社員は、当たり前化の空気に染まっておらず「あれ、おかしいな」などと感じやすいものの、社歴が浅いだけに言い出しにくかったり、「そういうものか」と思ってしまったりします。
不当行為との共存に抵抗を感じる社員は、それでも職場に居続けるため空気に染まるか、退職するかを迫られることになります。結果、共存を受け入れた社員だけが職場に残り、汚染濃度が高まっていくのです。
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