トライアルHDがこの取り組みを始めた背景には、流通業界全体への強い危機感がある。これまでの流通業界では、メーカーが卸業者を通じて小売店に商品を届けるのが一般的で、メーカーと消費者の距離が遠かった。そのため、販促も「価格を下げて売る」といった方法に頼りがちだった。
しかし、消費者の買い方が多様になる中で、メーカーと小売店が直接つながり、店頭での購買データを共有しながら販促を行うことの重要性が高まっている。
トライアルHD社長の永田洋幸氏は「流通のあり方を変えるためには、トライアルだけで進めていくのは不可能」と語る。企業が個別に進める「縦のDX」だけでは、変化の激しい消費者ニーズに応え続けることは難しいという認識だ。
そこで打ち出しているのが「横のDX」という考え方だ。具体的には、小売やメーカーといった業界の枠を超えて連携し、それぞれの会社が持つ知識やデータを共有することで、1社だけでは生み出せなかった新しい価値をつくろうという取り組みである。
新たに価値の高いアイデアを生み出すには深い議論が必要であり、リアルな場こそ最適となる。そこで、企業が集結できるムスブ宮若を立ち上げた。
郊外に施設を設けたのにも理由がある。永田氏は「イノベーションは1時間ほどの会議で生まれるものではなく、徹底的に考えることが必要だ」と話す。だからこそ、都心の喧騒(けんそう)から離れた場所のほうが集中しやすいと考え、あえて宮若市に拠点を構えたのだ。
世界的な企業の戦略も参考にしている。例えば、小売最大手の米ウォルマートは、アーカンソー州のベントンビルという街に本社を構えている。自然環境が豊かなところに、取引先の大手メーカー各社が数百人規模の専任チームを駐在させている。
韓国のサムスンも首都ソウルから離れた水原市(スウォン)の「サムスンシティ」に関係者を集め、距離を置くことで議論を重ねている。
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