一般的な施設であれば、より多くの人に訪れてもらいたいと思うだろう。そのこと自体はやなせたかし記念館も同じだが、それ以上に地域との調和を重んじる。道路渋滞など、地域に迷惑や負担をかけてしまうことは避けたい。
「開館当時の1990年代は地域経済優先だったため、住民の皆さんも許容してくださっていた面がありました。ただ、今は80代や90代の住民がいる集落も増え、多くの方が来ることに不安を感じる方もいます。私たちは地域の公立施設のため、地元の人たちを尊重しなければなりません。ドラマの影響で一時的に増えたお客さまだけを優先するのではなく、バランスを取りながら安全に運営できるよう、人数制限を設けました」(仙波さん)
地域に向けた活動は以前から行っている。1つは、香美市在住あるいは在学の中学生以下には年間6回まで無料で入館できるフリーパスを提供すること。もう1つは、映画上映会への招待である。毎年アンパンマンの新作映画公開の前に地元向けの試写会を開いている。いち早く地域の人たちに最新作を見てもらいたいという思いと同時に、映画に触れる機会を増やしたいという願いもある。実は、高知県は県内の映画館が、ここ20年で次々と閉館しており、今は2軒しかないのだ。
また、地元の子どもたちの作品展「未来の巨匠展」も開催している。やなせたかし記念館がある香北町と土佐山田町、物部村が町村合併して香美市になったことを機に、地域間の交流を図るため、保育園と幼稚園、小学校の作品展を、20年ほど前から実施している。これは施設へ足を運んでもらう機会の創出にも一役買っている。「お子さんや、あるいはお孫さんの作品を見に行こうとなり、1年に1回はうちに足を運ぶきっかけになっています」と仙波さんは話す。
紆余曲折を経ながらも、地元のシンボルとして約30年間この地域に根ざしてきたやなせたかし記念館。同施設は、やなせ氏の意志をどのように施設運営に生かしているのだろうか(後編に続く)。
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