本作のエンドロールに「ANIPLEX(アニプレックス)」とあるのを見て、意外に思った観客もいるかもしれない。アニプレックスは、ソニー・ミュージックグループ傘下のアニメ製作・配給会社で、『鬼滅の刃』や『Fate』シリーズなどの大ヒットアニメで知られる。映画『国宝』の製作幹事は、アニプレックスの子会社であるコンテンツ企画会社「ミリアゴンスタジオ」が務めている。
ミリアゴンスタジオは、2007年にオリガミクスパートナーズとして設立され、2023年にソニーグループ傘下のアニプレックスの子会社となった。映画・ドラマなど実写作品の企画プロデュースを中核とし、IP開発事業やクリエイターのエージェント事業も手がけるコンテンツスタジオである。
親会社であるアニプレックスはアニメーション事業で知られるが、本格的に実写映像制作事業を強化した形だ。注目すべきは、その背景にあるソニーグループの総合力である。
ソニーグループは、映画製作・配給の老舗であるソニー・ピクチャーズ エンタテインメントや、音楽事業を出発点としながら、アニメ産業でも存在感を増すソニー・ミュージックエンタテインメントを擁している。つまり、実写とアニメの両方で豊富な知見とネットワークを有している点が、ソニーグループの強みといえる。
また、カンヌへの出品やSNS戦略といった取り組みからも、ソニーグループ全体でマーケティングとプロモーションに力を入れていたことがうかがえる。
今回の『国宝』の成功は、こうした実写とアニメの垣根を超えた総合力は、日本発コンテンツが広がる可能性を示している。カンヌ国際映画祭「監督週間」部門および上海国際映画祭「インターナショナル・パノラマ」部門で上映され、いずれも大きな拍手を受けたという。両映画祭での上映も、ソニーグループが培ってきたプロモーション力と営業力の成果といえるだろう。
質の高い作品を作り上げ、それを適切に国内外へ届ける――その点でソニーグループが持つ力はすさまじく、本作のヒットは苦戦が続いていた日本実写映画の将来に、一筋の光をもたらしたといえる。
李相日監督が描き出した「芸に生きる人間への賛歌」は、歌舞伎の新規顧客開拓のみならず、実写邦画が世界に羽ばたくきっかけとなった。今後、実写やアニメといった枠にとらわれず、日本発のコンテンツをグローバル市場で広げていくためにも、『国宝』で培った経験が大きな力となるはずだ。
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