――「特命」執行役員として着任して、まずどのようなことから取り組まれたのでしょうか。
まず、「特命執行役員」という役職について、自分でもその意味をよく理解していませんでした。特別なミッションや指示が用意されているのかと思っていたのですが、実際は何もありませんでした。何をするかは自分で見つけていくしかないのが現実でした。
今、私が採用する立場になっても思うのですが、経営層に入った人材には「やってほしいこと」「やってもらいたいこと」は100も200もあります。しかしそれをリストアップした紙があるわけでもなく、頭の中にあるだけですし、伝えるのも難しい。結局は、自分で現場を見て、課題を見つけて、動いてもらうしかないんですよね。そういう意味で、ある程度の自由度と、自分で考える時間は与えられていたと思います。
入社してから2週間ほどで「教育ワンカンパニー構想」というプロジェクトを立ち上げました。最初の経営会議で驚いたのは、A4の紙に子会社70社ほどの売り上げや営業利益がずらっと並んでいる資料でした。教育関連だけで40社ほどあり、塾・教室も15社ほど、出版も4社ほどある。各社に社長がいて、社員も交流がなく、名刺もメールドメインもバラバラ。なぜ自分が、今の学研がどんな事業をしているかを知らなかったのかを、あらためて実感した瞬間でした。学研としての統一したプロダクトやブランドが見えにくい。これが最初に感じた課題です。
――サービスで言えば、例えば東進ハイスクールやサピックスなどはワンブラントで統一しています。
本当にその点は、私自身も入社当初から大きな疑問に感じていました。そのため「ワンカンパニープロジェクト」を立ち上げ、なるべく多くの会社を一つにまとめる方向で動きました。当時は40社を1社に統合する、あるいは4社に再編するなど、さまざまな案がありましたが、最終的には主要な4〜5社を中心に統合し、「学研」というブランドのもとで一社体制を目指すプロジェクトを推進しました。これにより、学研の教育や出版の事業内容、そしてブランド自体の統合を進められました。
同時に、学研グループとして足りない部分、特にデジタルやグローバル領域の強化も必要だと考え、私自身が新たなフィールドを作りたいという思いもあってGakken LEAPの立ち上げにも取り組みました。最初は「デジタル&グローバル」を意味する社名でしたが、最終的に「LEAP」という名称に変更しました。こうした新会社の設立と、既存ブランドの統合を並行して進めたのが、入社1年目の大きな動きでした。
――なぜ学研は多くのブランドがバラバラなのでしょうか
例えばサピックスや早稲田アカデミー、東進ハイスクールは、特定の学齢や地域に特化し、ブランドを集中させて成功しています。一方、学研の場合は0歳から90歳まで、全年齢・全領域をカバーすることを目指しています。M&Aによって事業を拡大してきた結果、全国47都道府県でそれぞれ地場の強いブランドを持つ企業を傘下に収める形になりました。例えば神戸市を中心とした「エディック」など、地域で圧倒的なブランド力を持つ塾もあり、そうしたブランドを一律に「学研」に統一すると、逆にブランド力が損なわれるリスクもあります。
また、介護事業でも「学研ココファン」というブランド名を使っていますが、現場では「ココファン」として認知されており、「学研」という名前が必ずしも即座に事業イメージに結びつくわけではありません。こうした事情から、ブランドの統合と独自ブランドの併用というバランスを取る必要があると考えています。
今後は、学研というブランドを「安心・安全」「伝統的」というイメージとともに、活用できる範囲で最大限生かしつつ、必要に応じて新ブランドも立ち上げていく方針です。2030年に向けては、10〜20代はもちろん、30〜40代までの方々にも「学研は何をやっている会社なのか」をしっかり伝えられるようにしたいと考えています。
現状では、50代以上の方は学習雑誌の『科学と学習』といったイメージを持っていますが、10代・20代では学研の認知度が非常に低い。だからこそ、0歳から90歳までをカバーするブランド戦略の再構築が必要であり、今まさにその再構築に取り組んでいるところです。
連載「学研の変貌」1回目は【学研、介護事業が「30%成長」の原動力に 「M&Aの成否」を分けるのは?】からお読みいただけます。3回目は7月25日の午前8時に公開予定です。
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