退職率が2年で10.3%→6.5%に QBハウスが「理美容業界の深刻な人手不足」に挑むワケ社内向けアプリで帰属意識を醸成(1/2 ページ)

» 2025年08月06日 06時00分 公開
[大村果歩ITmedia]

 「1400円カット」で知られるQBハウスは、国内外700店舗以上を展開し、社員数も2800人を超える(2025年8月現在)。言わずと知れた理美容大手の同社だが、「大企業に属しているという従業員の意識が醸成されづらい」という課題意識があった。

 店舗に在籍している4〜5人の従業員同士での会話は活発だが、店舗間を超えたコミュニケーションは生まれづらい。キュービーネットホールディングス 総務部 広報・Qプラ運営担当の宮城志歩さんは「(店舗で働く)従業員の帰属意識の低下や情報格差に加え、若干の孤立感を生んでいるのではないかという課題意識があった」と話す。

 同社はそれらの課題を解決するために、新しい取り組みをスタートした。

“大手企業勤務”ならではの魅力があるのに……社員に伝わりにくい状態に

 同社の各店舗に所属するスタッフは4人前後と少人数で、日常的に接するメンバーが限定される。そのため、他店舗の仲間の様子や会社全体の動きが見えにくく、情報格差や孤立感を生む一因となっていた。宮城さんは「3000人近くの従業員がいるにもかかわらず、日常的に接する人数が少ないため、従業員の“大企業に属している”という意識がなかなか醸成されにくい状態だった」と話す。

 「理美容業界は個人店が多いのが特徴で、手厚い社会保障を受けられない方も多いのが現状。持株会や福利厚生、他にも万が一けがをしてしまったときの補償など、当社ならではの制度がたくさんある。そういった部分で、大企業に属しているからこその安心感のようなものを感じてほしい」(宮城さん)

 忙しい店舗スタッフが自分で情報を探しに行かなくても、自然とそれらについて知れる仕組みを作る必要があった。

(出所:プレスリリース、以下同)

 社内に向けた情報発信の方法として、これまでは2カ月に1度、紙の社内報を全店舗に配布していた。しかし、スピーディーな情報発信が難しく、忙しい店舗スタッフはなかなか手に取れないという課題があったという。

 そこで同社は、全社員が気軽に使用できるコミュニケーションアプリ「Qプラ」の提供を開始した。

全社員が利用できる「アプリ」を提供

 Qプラは社内SNSのようなもので、雇用形態に限らず全従業員が利用できる。アプリにすることで、スマートフォンで簡単に見れるようにした。

 「会社からの情報発信のしやすさだけでなく、受け手の分かりやすさも重視。当社はモノを売るのではなく、人ありきのサービスを提供しているため、従業員がどうしたらより楽しく働けるか、ワクワクしてくれるかを考え、双方向でのコミュニケーションを実現できるツールを目指した」(宮城さん)

Qプラのイメージ

 これまで社内報で発信していた内容をWeb化しただけでなく、新店のオープン情報やキャンペーンのお知らせ、カットや接客のコツなどの“お役立ち情報”のようなものを発信している。社員インタビュー記事も公開しており、QBハウスに入社したきっかけや入社して変化したことなどの“生の声”を届けることで、他店舗のスタッフを知る機会を提供する。

 教育コンテンツにも注力する。紙の社内報では提供できなかった動画での情報発信が可能に。文字では伝えにくいヘアカット技術や接客ノウハウなど、動画を用いたEラーニング機能も装備する。

Qプラについて

社長からのメッセージにコメント殺到

 各コンテンツには、従業員が自由にリアクションスタンプを押したり、コメントを書き込んだりできるようにした。コメントの書き込みはハードルが高いように思われるが、過去には社長からのメッセージに対したくさんのコメントがつき、盛り上がったという。

 同社が4〜6月に実施したテスト運営では、従業員の多くがコメント発信に対してハードルが高いと感じていることが分かっていた。それにもかかわらず多くのコメントが寄せられたことについて宮城さんは「そのハードルを乗り越えてもなお、現場のメンバーが伝えたいものがあるのだと身に染みて感じた」と振り返る。

リアクション機能について

 現状、コンテンツを発信できるのは、広報や人事の一部部門に限っているが、今後はより多くの従業員が発信できる環境・文化を作っていきたいと意気込む。

 従業員からの発信、従業員同士のコミュニケーションが増えれば、今までは難しかった「店長」「エリアマネジャー」など、似た立場のメンバー同士で情報を共有できる可能性もある。

 「Qプラでさまざまな従業員同士の交流が実現することで、『店舗メンバー以外にも頼れる人はいるんだ』『同じような思いを持って働いている人がいるんだ』などと気付くきっかけになり、安心感の醸成や社員の定着につながるのではないかと見込んでいる」(宮城さん)

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