「自社の製品情報が、他社のAIから出力され争いになった」
「AIが作成した英文メールが、失礼な表現だと顧客からクレームが入った」
AI活用が加速する一方で、その裏側では、情報漏洩(ろうえい)やコンテンツ炎上、誤情報の発信など、企業の信頼やブランドに影響を及ぼしかねない事案が増えています。
とはいえ、導入をためらっている間に、すでに活用を始めた企業に先を越されてしまうでしょう。例えばマイクロソフトは、AIを活用することで、コールセンター部門において2024年だけで5億ドル(約750億円)以上のコスト削減を実現したと報じられています(Bloomberg, July 2025)。
国内ではパナソニックホールディングス(HD)傘下のパナソニックコネクトが7月、社内で活用する生成AIで2024年度に業務時間を約45万時間削減したと発表しています。(日経新聞2025年7月)
実際、こうした導入例は単なる業務効率化にとどまらず、顧客対応の品質向上や従業員満足度の改善にもつながっているとされ、多くの企業が人的リソース不足を補いながら競争力を高めるための戦略としてAI活用に乗り出しています。
しかし問題は、“使い方”が組織として明確に定義されていないまま、各部門や担当者レベルの判断で導入が進んでしまうケースが少なくないことです。
本稿では、国内外ですでに発生しているさまざまなAI関連トラブルを具体的に紹介しながら、企業が今すぐ整備すべき対策や、ガイドライン策定の考え方について、解説していきます。
生成AIは、その利便性ゆえに導入のハードルが低く、現場レベルでの活用が先行しやすい特性を持っています。しかし、AIの活用が業務プロセスに深く入り込むにつれ、企業がこれまで経験したことのないタイプのリスクが顕在化しています。
ここでご紹介するAI活用に関するトラブルの事例は、いずれもここ2年以内に報じられたものです。
半導体事業部に所属するエンジニアが、回路設計の修正にあたってChatGPTを活用。具体的なコードをそのまま入力したことで、結果的に機密情報が外部AIの学習データとして取り込まれた可能性があると報じられました。これを受けてサムスン電子は、全社的に生成AIの使用を禁止。社内規程や技術統制の見直しが急務となりました。
ChatGPTを使って生成された回答の中に、自社の内部データに酷似する表現が含まれていたことが判明。情報管理の観点から、従業員が意図せず業務データを外部AIに入力していた可能性が疑われました。Amazonはすぐに社内通達を出し、ソースコードや内部資料のAI入力を厳しく禁止する方針を示しました。
AIが自動作成した営業メールが「無礼で攻撃的」とSNSで批判され、ユーザーから不信感を招く結果となりました。言語的なニュアンスや文化的背景への配慮が欠けていたことが要因とされており、AI活用の成果物についても、人間によるレビュー体制の重要性が、あらためて問われるきっかけとなりました。
一方日本では、AIによる創作物への消費者の感受性が高く、表現の違和感が企業への不信感に直結しやすい傾向があるようです。
とはいえ、個人的にはこうした日本特有のAI表現に対する社会的な反発は過渡期的な現象と考えます。数年のうちにこうした炎上は減少し、より成熟した受け止め方がされるようになると予想しています。
ここまでご紹介した国内外のトラブル事例に共通するのは、「AIの導入前後に必要なルール整備と従業員教育が不十分だった」という点に尽きます。
企業が直面するリスクの多くは、運用設計の甘さに起因しています。
多くの企業では、これらの点を明文化したガイドラインが存在しないか、あっても形骸化しており、現場に浸透していないのが現状です。
結果として「知らずに使った」「つい入力してしまった」といった“善意のミス”が、重大なリスクの顕在化につながっています。
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