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トップでも先陣は切らない AOKIHD副社長に聞く「快活CLUB独り勝ち」の真相

» 2025年09月12日 08時00分 公開

 快活CLUBの独り勝ちが止まらない。コロナ禍で市場全体が縮小する中でも、同社は鍵付き完全個室と時間貸しの利便性によって、新規需要を着実に取り込んでいる。この5年間でも、運営会社の快活フロンティアの売上高は、2020年3月の約584億円から約725億円(2025年3月)まで伸ばしている状況だ。

 一方でインターネットカフェ業界全体を見ると、苦境に立っている。東洋経済によると、ここ十数年で店舗数が8割も減少。こうした局面でも快活CLUBは店舗数は横ばいを維持し続け、日本複合カフェ協会に加盟する737店のうち、快活CLUBだけで492店舗(2025年4月時点)。実に約66.8%を占める。

 快活フロンティアの親会社は、実は「スーツのAOKI」で知られるAOKIホールディングスだ。祖業であるAOKIのファッション事業の売り上げ以上に、快活フロンティアの「エンターテイメント事業」が底上げをする形が続いており、現在では快活フロンティアの売り上げがグループ全体の38.6%を占める。

 なぜ、ここまでの快進撃が続いているのか。独り勝ちの勝因は? AOKIホールディングスの照井則男副社長に聞いた。

照井則男 1996年に日本マクドナルド株式会社入社。2003年にスターバックスジャパン株式会社入社。2008年4月にVice Presidentに就任し、本国と連携をとりながらシステムデザインから設計までの刷新に取り組む。2015年に株式会社AOKIホールディングスに執行役員 情報システム副本部長として入社。2018年に常務取締役 情報システム本部長、2019年6月グループ情報システム担当を経て2023年6月に取締役副社長執行役員に就任。ほか株式会社ランシステム取締役、 株式会社快活フロンティア取締役執行役員を現任している。68歳。東京都出身(撮影:河嶌太郎)

リモート定着で高まる「時間を買う」需要

――快活CLUBはコロナ禍以降、リモートワークとの相性が良いビジネスとして成長しているように見えます。その点をどう考えていますか。

 やはりリモートワークやテレワークの広がりは大きな追い風となりました。同時に、日本の住居事情も影響しています。家では子どもの存在などで集中が難しく、勉強や資格取得のために自分だけの時間や空間を持ちたい、そうしたニーズが影響していると考えています。

 通勤や帰宅の途中に、1時間でも2時間でも利用できる個室があるのは非常に便利です。快活CLUBは空調も含めて快適な環境を提供しており、まさに「時間を買う」サービスとして利用者の支持を得られました。ホテルのように1泊単位でしか借りられないわけではなく、時間貸しでニーズに応じた利用環境を確保できる。この特性がリモートワーク時代の新しい生活様式に合致したのだと思います。

――その結果、直近でも店舗が大幅に増えています。出店を加速できている要因はどこにあるのでしょうか。

 一つは、グループとして全国に既に多くの店舗を持っていることです。それによって既存店舗を改装する形でのテストができることが強みです。例えば、鍵付き完全個室だけを設けた新形態の店舗に改装し、その稼働率や利用状況を実際に検証します。その上で、一定の成果が確認できれば、その形態の店舗を類似エリアに新規出店していく。つまり、実験的な取り組みを既存店舗でトライし、うまくいけば新しいモデルとして多店舗展開するやり方です。

 こうしたテストを繰り返しているので、直近の出店は単なる拡大ではなく、検証済みのモデルをベースに実行しています。加えて、コロナ禍以降の空き店舗情報が出てきたこともあり、そうしたスペースを有効活用する形で小型店舗を出しています。顧客需要と店舗供給の両方がうまく重なったことで、直近の出店拡大につながっています。

快活CLUBの通路

トップランナーでも先陣は切らない 良事例を取り込む戦略

――今回、7月に一度に2店舗新規出店した京都のような地域もありますね。

 単純にビジネス需要だけで動いているわけではありません。出店にあたってはエリア特性をしっかり見極めます。物件が出てきたときには、経営陣も直接関与して判断しています。私自身もITやDXの担当ではありますが、実際に店舗に出向いて現場のサービスを確認したり、競合他社の店舗を訪れたりしています。

 現場で体験を積み、そこで「競合がこういうサービスをしているなら、当社はこう差別化すべきだ」と意見を述べることができます。出店判断は、立地や物件条件だけではなく、ITやDXの観点も含めた複合的な視点でするようにしています。これによって、大きな外れが少ない出店戦略を実現できている。そう感じています。

――やはり成長の背景にはITやDXの強化がありますね。他社に比べても、快活CLUBは一歩抜きん出ている印象があります。

 しかし、実はわれわれは決して、競合他社に対して「先頭を切る」ことはしていません。むしろ競合や異業種の取り組みをよく観察し、好事例を取り入れていく姿勢を大切にしています。国内だけでなく海外のチェーンやサービスにも目を向けています。ITだけでなく、店舗開発の仕組みも含めて研究しており、それは快活CLUBだけでなく、AOKIグループ全体で共有しています。

――参考にしている海外事例など、差し支えない範囲で教えていただけますか。

 例えば韓国では予約システムや業務オペレーションの効率化が非常に進んでおり、参考になる部分が多いです。部屋をできるだけ無駄なく回転させる仕組みづくりですね。退店と同時にスタッフの端末に通知が入り、即座に清掃に入れるようにする。これは小さな工夫ですが、積み重ねることでコストも生産性も最適化できます。現地を実際に視察しながら、こうした運営方針に学ぶことが多いですね。

快活CLUB 都城店

都市部は点ではなく面で攻める出店設計

――国内のケースでも他業種を参考にすることはあるのでしょうか。

 もちろんあります。例えばニトリさんの小型店舗は興味深い研究対象です。大型ロードサイド店だけでなく、都市部のショッピングセンターに併設する小型店舗も展開されています。そうした事例を直接見に行き、出店戦略や運営方法を分析します。その後、関係者と意見交換しながら自社の出店の参考にします。つまり、業態や国境を越えて、成功事例を取り込みながら独自の出店戦略に落とし込んでいきます。

――秋葉原のような駅前店舗は非常に需要が強いと感じます。利用するのはやはり若い世代が中心ですか。

 若い方も多いですが、最近はビジネスパーソンや女性の利用者も増えています。特に「鍵付き完全個室」の需要が高く、都心では顕著です。

――その鍵付きブースはどのような立地を中心に展開しているのでしょうか。

 基本的には人口が集中する都市部が中心です。新宿のように東口と西口の両方に出店するケースもあり、お客さまの利便性を高める狙いがあります。小規模でもエリア内に面で展開していくことで、いつでも近くにあると思える環境づくりを進めています。

――なるほど。地方出店の考え方とは明らかに違いますね。

 その通りです。これまでのように点で出店を考えるのではなく、都市部では面でマーケットを形成することを重視しています。

現場の声で素早く個室中心に切り替えたアジャイル運営

――快活CLUBは2024年7月に、渋谷でカフェラウンジと個室中心の新業態店舗も展開しています。これはどういった狙いがあったのでしょうか。

 渋谷センター街店は、個室にカフェラウンジを併設する形で始めました。当初はオープンスペース型にしましたが、実際に運営してみると個室の方が圧倒的に人気で、常に満席に近い状況でした。渋谷はスーツケースを持って利用する方も多く、ちょっと休憩するにしても「席が確保できない」という不便さがありました。そうした利用者の声もあって、現在は全室予約可能な個室に切り替えています。

快活CLUB渋谷センター街店

――料金設定はどのくらいなのでしょうか。

 店舗によって若干異なりますが、渋谷センター街店は、平日は鍵付き完全個室が1時間850円程度です。1時間あたり千円を切る設定ですので、都心の立地やサービス内容を考えれば安価だと思います。

 渋谷のような繁華街では、リモートワークやオンラインミーティングの場所に困っている方が必ず出ます。われわれはそこに「安心して座れる個室」を提供することが大きな強みです。当初はラウンジ中心でしたが、実際の利用者の声を反映して素早く仕様を鍵付き個室中心に変更しました。こうした柔軟性のある、アジャイル的な運営がわれわれの強みだと思います。

――実際、こうした店舗では利用者の属性も変化しているのでしょうか。

 快活CLUB全体では利用者の約8割が男性ですが、渋谷のような駅前型では女性比率が3割程度まで上がっています。若年層の利用も多く、個室中心型店舗ならではの広がりが出ています。

喫茶店とは逆発想の「居心地最優先」

――快活CLUBでは居心地の良さにもこだわっていますよね。

 その通りです。われわれは利用者に「長時間利用していただくこと」に価値があります。喫茶店では、客回転率を上げるために快適性をあえて打ち出さないところもあります。しかしわれわれのビジネスモデルでは、利用者が長い時間滞在することがそのまま収益につながります。ですので、個室ブースでは長時間座っても疲れないように、ソファやマット、机の高さまで徹底的に設計しています。そこが一般的な喫茶店との根本的な違いだと考えています。

――今や快活CLUBは、鍵付き完全個室や長時間滞在できるスペースの導入など、従来のインターネットカフェから大きく進化している印象があります。寝泊まりに使う利用者も少なくない一方で、「宿泊施設」ではないことの線引きについてはどうお考えですか。

 われわれはあくまでも「宿泊施設」ではありません。利用者がどう利用するかは自由ですが、われわれの提供スタイルはあくまで「時間貸し」です。6時間や12時間といった形で利用いただき、そのために最適な構造や環境を整えることが基本の考え方です。ですのでホテルのように「1泊」という体系ではなく、あくまで時間単位のサービスになります。

――なるほど。清掃や運営の仕方もホテルとかなり違うということですね。

 そうです。ホテルは宿泊を前提に設計されていますが、われわれは短時間利用を前提にしているため、清掃性や効率性が最優先になります。仕組みの作り方そのものがホテルとは異なっており、完全に別業態だと思っています。

時間単位モデルが生む、ホテルがまねしにくい強み

――カプセルホテルなどでは、予約が入り続けているため、実際の利用がないのに満室扱いになるケースもあります。この予約管理の考え方も違いがあるのでしょうか。

 そうですね。予約をどう受け付けるかは、まだホテルほど汎用化していません。時間貸しという仕組み上、退店と入店がずれると空きがあっても「満席」に見える場合があります。

 われわれの特徴は、時間単位で貸すことを前提にその仕組みを最適化しています。そのため、ホテル業界ではまねしにくい運営システムや人材配置、清掃手順なども含めて独自のノウハウを構築しています。ホテルにはホテルの強みがあり、われわれには時間貸し業態ならではの強みがあります。こうした違いが、ホテル業との差別化につながっていると考えています。

――今年の7月から9月にかけても、13店舗増やす方針です。これはどのような戦略なのでしょうか。

 夏は快活CLUBにとって最も需要が高い時期です。7月から8月にかけて夏休み需要があり、利用指数が最も伸びます。その時期に新規出店を重ねれば、すぐに成果が見込めるため、集中して展開しています。

――今後も出店を積極的に拡大していく方針でしょうか。

 引き続き増やしていきます。2024年は新規で15店舗出店しましたが、その中で一部は閉店やリプレースもしています。つまり単なる積み増しではなく、入れ替えも含めて最適化を図っています。

快活CLUBのセルフフロント

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