ドイツのベルリンで9月初め、欧州最大の家電・IT見本市「IFA」が開催された。コロナ禍以降、日本メーカーの出展が激減し、今回まともなブースを設けていたのはパナソニックとシャープだけだった。代わって見本市の主役を務めていたのが韓国や中国、トルコなどの家電メーカーで、テレビの映像表示技術や生成AI関連の製品やサービスに関心が集まった。
現地を取材したIT分野の調査・コンサルティング会社、MM総研の関口和一代表取締役所長がレポートする。
「2024年はQLEDテレビを発表し、今年はMini(ミニ)LEDを発売した。これからはMicro(マイクロ)LEDに力を注ぐ」。コロナ禍でIFAへの出展をしばらく取りやめていたシャープは2025年、映像配信サービスの英skyや米TiVo(ティーボ)、それにヤマハとの共同で記者会見を実施。久しぶりにシャープの映像技術戦略をアピールした。
説明に立った同社ドイツ法人のサーシャ・ランゲ販売担当副社長は液晶テレビのMiniLEDやOLED(有機EL)とも異なる新しい映像表示技術「MicroLED」を採用した136インチの大型テレビを発表し、「映像技術のシャープ」を改めて記者団に訴えた。
映像配信技術についてもTiVoと共同で視聴者が自由に映像コンテンツを選べる新しいスマートテレビ用の基本ソフト(OS)を開発したことを発表した。米NetflixやDisneyといった動画配信プラットフォームにとらわれることなく、視聴者が見たい番組や映画などをさまざまな映像チャンネルから自由に検索し、簡単に表示できるシステムを紹介した。新しいOSは「Extraordinary TV(並外れたテレビ)」をキャッチフレーズに世界40カ国25放送チャンネル、50映像配信サービスに対応し、16カ国語で使えることから、すでに月間400万人の利用者を獲得したという。
シャープは本業の家電以外にも新たな事業領域として3年前にe-bike(電動自転車)に参入したが、今年は新たに27モデルを投入すると表明。ブースにはさまざまなデザインの電動自転車を数多く展示した。さらにヘルス&ウェルネス事業にも参入するとして、小型のマッサージガンや電子血圧計、ベビーモニターなどの新製品サンプルを紹介。本業の映像技術の延長線としてはVR(仮想現実)グラスのプロトタイプなども展示した。
シャープがMicroLEDの映像技術に参入するのは欧州のテレビ市場で画面の大型化と高画質志向が進んでいることが背景にある。画質では韓国のLG電子が強みを持つ自発光型のOLEDが人気を呼んでいる。
そこで対抗軸として注目されるのが、液晶パネルとバックライトの間に「量子ドット(QD)」と呼ばれる半導体粒子のシートをはさむことでバックライトの青い光を吸収し、RGB(赤・緑・青)の色表現を鮮やかにするQLEDの技術と、バックライトのLED(発光ダイオード)の密度を高め個別に調光することで明暗をはっきりさせたMiniLEDの技術だ。
いずれも大型化に適した技術だが、シャープが新たに投入するMicroLEDはそのいずれでもなく、OLEDと同様、LEDの各画素にRGBを個別に発光させる自発光型ディスプレーで、完璧な黒や高いコントラストを表現できる。
実はこうしたテレビの映像技術の開発競争は2010年代から展開されており、その主導権争いを展開しているのが韓国と中国の家電メーカーだ。OLEDで先行したLGに対しQLEDで戦いを挑んだのがサムスンで、次いでMiniLEDを商品化したのが中国のTCL科技集団だ。TCLはさらにQLEDとMiniLEDの両方の技術を融合した「QD-MiniLED」という表示技術を開発し、中国の海爾集団(ハイアール)もその技術に力を入れている。
一方、サムスンはバックライトのLEDチップの密度をさらに微細化することで色の純度を高めた「MicroRGB」という技術を投入。中国の海信集団(ハイセンス)はサムスンと似た技術を「RGB-MiniLED」という名前で展開しており、今回のIFAでは「U7S Pro」という116インチの大型テレビを発表した。
シャープが投入するMicroLEDは微細なLEDチップを並べる点はサムスンのMicroRGBと似ているが、液晶パネルを使わずLED自体が発光するという点では自発光型のOLEDに近い。有機材料を使うOLEDは経年劣化による焼き付きがあるのに対し、MicroLEDにはそうした問題がなく、OLEDよりも高い輝度を持つ。唯一の難点は製造コストが高いことで、サムスンやLG、ソニーなども商品化はしたものの、今後の映像技術の主役となれるかはまだ分からない。
ただ、かつてシャープが世界の液晶テレビを牽(けん)引し、パナソニックがプラズマディスプレーを主導した時代を振り返ると、そうした世界の映像技術競争から脱落してしまった日本メーカーが、再び技術開発の最前線に立ったことはおおいに評価できよう。
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