そうしたスマート家電の流れは、IFAなどの国際見本市の展示にも表れている。韓国メーカーは米国のIT企業などが推進する家電製品の国際的な相互接続規格「Matter(マター)」を担ぐ一方、欧州やトルコの家電メーカーと一緒に家電業界を中心とした「ホーム・コネクティビティ・アライアンス(HCA)」という業界団体を起ち上げ、メーカー間の壁を超えた家電製品のネットワーク化を進めようとしている。日本の家電メーカーはマターには参画しているものの、HCAにはどの企業もまだメンバーとして名を連ねていない。
今後は生成AIと共に登場したAIエージェントを家電製品にどう組み込むかが大きな課題だ。サムスンは「Ballie(ボーリー)」と名付けた球体型の家庭用自走ロボットを開発し、そこに音声アシスタント機能を加えることでさまざまな家電製品をロボットで制御しようとしている。LGも「CLOi(クロイ)」と名付けた音声アシスタントロボットで家電製品を操作できるようにしようとしており、中国のハイセンスもサムスンやLGに対抗し、AIロボット「Ai Me(アイミー)」のコンセプトモデルを今回のIFAで一般公開した。
日本の家電メーカーはパナソニックとシャープしか出展していなかったこともあり、今回のIFAの日本企業ブースには残念ながらそうしたAI関連の展示はほとんど見当たらなかった。パナソニックは1月に米ラスベガスで開かれた世界最大のIT見本市「CES」で米アンソロピックと一緒に生成AI技術を活用した家族向けウェルネス支援アプリ「Umi(ウミ)」を華々しく発表したところだが、ドイツの現地法人を中心に出展したIFAのパナソニックブースにはUmiに関する説明はなかった。
主催団体であるIFAマネジメントによると、今回の見本市には世界49カ国から約1900社・団体が出展し、約22万人が来場した。ベンチャー企業の出展が多いCESの出展者数は約4500社・団体に上るが、来場者数は約14万人で、実はIFAの方が多い。
3月にスペインのバルセロナで開かれた世界最大のモバイル見本市「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」には約3600社・団体が出展し、約11万人が来場したが、最も歴史の古いIFAが今も最も集客力がある。従来型の家電製品のグローバル市場は韓国や中国、トルコなどのメーカーに明け渡したとしても、それだけ多くの人が集まる国際見本市があるなら、日本のメーカーや団体はそうした場で日本が持てる最新の技術やサービスを披露すべきだろう。
コロナ禍で日本人全体が出不精になってしまったが、気持ちを入れ替えて、こうした国際舞台に再び出ていかなければ、日本の経済力や技術力の存在感は、グローバル市場でますます失われてしまいかねない。
(株)MM総研代表取締役所長、国際大学GLOCOM客員教授
1982年一橋大学法学部卒、日本経済新聞社入社。1988年フルブライト研究員としてハーバード大学留学。1989年英文日経キャップ。1990年ワシントン支局特派員。産業部電機担当キャップを経て、1996年より編集委員を24年間務めた。2000年から15年間、論説委員として情報通信分野などの社説を執筆。日経主催の「世界デジタルサミット」「世界経営者会議」のコーディネーターを25年近く務めた。2019年株式会社MM総研の代表取締役所長に就任。2008年より国際大学GLOCOMの客員教授。この間、法政大学ビジネススクールで15年、東京大学大学院で4年、客員教授を務めた。NHK国際放送のコメンテーターやBSジャパン『NIKKEI×BS Live 7PM』のメインキャスターも兼務した。現在は一般社団法人JPCERT/CCの事業評価委員長、「CEATEC AWARD」の審査委員長、「技術経営イノベーション大賞」「テレワーク推進賞」「ジャパン・ツーリズム・アワード」の審査員などを務める。著書に『NTT 2030年世界戦略』『PC革命の旗手たち』『情報探索術』(以上日本経済新聞)、共著に『未来を創る情報通信政策』(NTT出版)、『日本の未来について話そう』(小学館)『新 入門・日本経済』(有斐閣)などがある。
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