欧州のテレビ市場では放送や映像配信サービスなどさまざまな映像チャンネルから見たい番組や映画などを選び出すスマートテレビ向けの基本ソフト(OS)の開発競争も激化している。スマートテレビを最初に開発したのはインターネットにテレビをつなぐWidget(ウィジェット=簡易アプリ)を2007年に発表したサムスンだが、ソニーも2015年に米Googleと組んで「Google TV」というスマートテレビを投入した。
その後、LGは「webOS」と名付けた独自テレビOSを開発し、サムスンは簡易アプリを発展させた「Tizen(タイゼン)」というテレビOSを採用している。中国勢ではGoogle TVを採用する家電メーカーが多いが、ハイセンスは2019年に「VIDAA(ヴィダ)」という独自OSを開発し、高速な動作感と簡単なユーザーインターフェース(UI)で人気を呼んでいる。
日本メーカーはこれまで各社が独自システムを採用してきたが、Google TVや米アマゾン・ドット・コムの映像配信サービス「fire(ファイア)TV」が登場したことで、パナソニックは米モジラ財団の「Firefox OS」をベースにした「My Home Screen」というOSを開発し、独自OS路線を敷いた。
シャープはGoogle TVや米映像配信技術会社、Rokuが開発した「Roku TV」やTiVoのOSなどを用途に応じて使い分けてきたが、今回の発表ではTiVoとシャープがOSを共同開発することで「より視聴者の立場に立った視聴体験ができるようにした」とシャープ・ポーランド法人の金森恒明AV担当副社長は説明する。
スマートテレビOSは「Tizen」「webOS」「VIDAA」といったメーカー側が開発したOSと、「fire TV」「TiVo」「Roku TV」など配信プラットフォーム側が開発したOSの2つに大別される。メーカーOSはハードウェアとの相性はいいが、視聴者がメニューや検索手順などを自由にカスタマイズできるという点ではプラットフォームOSの方に軍配が上がる。
ほかにも欧州には「whale(ホエール)TV」や「TiTan(タイタン)」といったメーカーにもプラットフォームにも縛られない独自OSが存在するが、シャープが今回狙ったのはメーカーとプラットフォームの両方の技術のいいとこどりをしようというOSだ。
欧州ではかつてはソニーやパナソニック、シャープ、東芝といった日本の家電メーカーがテレビ市場を席捲していたが、その後、韓国や中国、それにVESTEL(ベステル)といったトルコメーカーに圧され、もはやその存在感は全くなくなった。
IFA開催期間中もベルリン市内の家電量販店を回ってみたが、ソニー製品が箱のままいくつかあっただけで、店頭に飾られていたのはサムスンやLG、TCL、ハイセンスといった韓国や中国のブランドだった。台数が出なければ独自OSを維持することは難しく、日本メーカーがスマートテレビのOS開発競争から脱落してしまったのもうなずける。独自OS路線を敷いたパナソニックも2024年ごろからはfire TVを採用するようになっている。
今回のIFAでもうひとつ注目されたのが家電製品への生成AI技術の活用だ。AIによる家電操作は米オープンAIの「ChatGPT」が登場する前から業界では大きな課題となっており、その先鞭をつけたのが韓国のサムスンとLGだ。アマゾンが2014年に音声アシスタントの「Alexa(アレクサ)」を発表したことがきっかけとなっている。
サムスンは内蔵カメラで庫内を自動で確認したり料理のレシピを提案したりできる「ファミリーハブ」という冷蔵庫を2016年に発売、翌2017年には音声アシスタントの「Bixby(ビクスビー)」を発表した。LGも同じ2017年に「ThinQ(シンキュー)」という同社のAIブランドを立ち上げ、エアコンや洗濯機、冷蔵庫などをAIにより音声などで制御できるようにした。
日本ではパナソニックが2012年に「AIエコナビ」という冷蔵庫内のセンサー機能を投入したり、「ユビキタス」の名称でスマート家電のコンセプトを発表したりした。言い換えれば、AIの導入に一番早かったのは日本のメーカーだが、その後に普及したインターネットへの対応が遅れたことなどから、主導権をとることができなかった。結局はGoogleやアマゾンなど米国のネット企業がスマート家電ブームに火をつけ、それに韓国メーカーが乗る形でスマート化が進み、先行していたはずの日本メーカーは逆に後塵を拝す結果となった。
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