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グッチは売上25%減でCEO解任 コーチ、ラルフは追い風 Z世代が“明暗分けた”高級ブランド市場

» 2025年09月30日 19時30分 公開
[ロイター]

 フランスから米国へやって来たフルール・アルベルさん(24)とクリストフ・ケルーズさん(24)は最近、米ニューヨークのルイ・ヴィトン旗艦店の入り口にしつらえられた、色彩豊かなキリンとダチョウの彫像にひかれて店内へと足を踏み入れた。彫像には「L」と「V」の文字などをモチーフとする有名な「モノグラム」柄があしらわれている。しかし2人がこの店舗で買い物をすることはないだろう。自社のロゴを前面に押し出したデザインはもう時代遅れだと感じているからだ。

 「ルイ・ヴィトンはラグジュアリーなイメージを保てていない」と語るケルーズさん。「もっと斬新でオリジナリティーのある商品を作らなければ」と手厳しい。

 アルベルさんとケルーズさんは、1998〜2012年に生まれた「Z世代」に属しており、この世代は高級ブランド業界にとって新たな開拓市場だ。ボストン・コンサルティング・グループによると、Z世代が世界の高級ブランド品市場に占める割合は新型コロナ禍前には4%だったが、2030年までに25%に上昇する見通しだ。

米ニューヨーク5番街にあるルイ・ヴィトンの店舗で撮影(2025年 ロイター/Sami Marshak)

グッチは売上25%減でCEO解任 コーチ、ラルフは追い風 何が明暗?

 経営者やコンサルタント、アナリストによると、Z世代は従来の消費層よりも特徴を把握しづらい。地球規模のソーシャルメディア環境の影響を受け、大手ブランドの商品とトレンド性の高いブランドを自由に組み合わせ、商品の購入先も動画投稿アプリ「TikTok」から古着屋まで多岐にわたる傾向がある。老舗ブランドはZ世代をひきつけようと、インフルエンサーの起用、期間限定のポップアップストア、バッグチャームのような手頃なアイテムの提供など試行錯誤している。

 「上海、ロサンゼルス、ロンドンのZ世代には大きな共通点がある」と話すのはコーチの親会社タペストリーのスコット・ロー最高財務責任者(CFO)兼最高執行責任者(COO)だ。

 コーチやラルフローレンのような、比較的手ごろな価格の高級ブランドは、こうした世代の波に乗っている。ラルフローレンの売上高は3月までの1年間に6.8%増加。専門家によると、コーチはインフルエンサーの活用、顧客1人1人に合わせた「パーソナライズ」サービスの提供、サステナビリティ(持続可能性)などに注力することでZ世代から支持を得ている。コーチは6月までの1年間の総売上高が9.9%増の約56億ドルとなった。

 タペストリーのロー氏は、Z世代は他の世代に比べてブランドに対する忠誠心が低いわけではないが、選択肢が増えているため、ブランド側がZ世代に手を届かせるのが難しいと指摘。「この状態を突破するには強い存在感を示す必要がある」と述べた。

 存在感を高めるにはコストがかかる。タペストリーは、コロナ禍前に3%だった対売上高マーケティング費比率を今年は10%に引き上げたと、5月の決算説明会で明らかにした。ただ、そのうちどの程度をZ世代に振り向けたかには言及しなかった。

 高級ブランド各社は「コリーナ・ストラーダ」や、メアリー・ケイト・オルセンとアシュレー・オルセンのオルセン姉妹が立ち上げた「ザ・ロウ」など、規模の小さい新興ブランドとの競合にも直面している。ザ・ロウは、最新のブランドランキング「リスト・インデックス」で順位を2つ上げて6位につけた。

 コリーナ・ストラーダのクリエイティブディレクター、ヒラリー・テイモア氏は、2020年にデジタル広告を使ってZ世代をターゲットにし始めたと明かした。今ではZ世代とミレニアル世代が事業の58%を占めている。「サステナビリティを、遊び心あふれるミーム的な美学と組み合わせている」と説明。自社のブランドについて「インクルーシブ(包摂的)なキャスティングや多様性のあるファッションショー」が若い観客にコミュニティの一員であると感じさせていると話した。

手ごろなアイテムが鍵

 全てのブランド大手が置き去りにされているわけではない。ケリング傘下のボッテガ・ヴェネタ、プラダ・グループのミュウミュウ、モヘ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)傘下のロエベといった高級ブランドは、いずれもZ世代向けの販売で健闘している。現在、ミュウミュウはリスト・インデックスで首位に立ち、ロエベは2位だ。

 ミュウミュウの売上高は今年上半期に前年同期比49%増加。240ドルから1250ドルの価格帯のレザー製バッグチャームによって、初めて高級ブランドを購入する顧客を取り込んでいる。

 安価な商品は、年長の世代よりも価格に対する視線が厳しい、若い年齢層の消費者をひきつける要因となっている。バンク・オブ・アメリカによると、2024年8月から2025年8月までにZ世代とミレニアル世代(1978年以降生まれ)の支出増加率が0.5%にとどまったのに対し、ベビーブーマー世代は2.4%増加した。

 ロサンゼルス出身のケンドール・スティルさん(26)は「高級ブランドを買うときは長く使えるかどうかを考える。高いお金を払うのだから、5年や10年で飽きてしまわないものが欲しい」と話す。

 一方で苦戦するブランドもある。ケリング傘下のグッチは第2・四半期の売上高が25%減少。就任からわずか9カ月のステファノ・カンティーノCEOが9月17日に解任された。

 Z世代を対象にリサーチするdcdxのデータによると、グッチは過去1年間にソーシャルメディア上で主要な高級ブランドとしての存在感が最も急激に低下した。ケリングの株価が過去2年間で43%下落した一方、タペストリーは3倍余りに上昇した。

 ベイン・アンド・カンパニーのシニアパートナー、フレデリカ・レヴァート氏は「老舗ブランドは明確に勝者と敗者に分かれつつある」と指摘する。

 次に世界で台頭する可能性があるのは「ウマ・ワン」や「シュシュ/トング」など中国のブランドだ。アジアにおいて中国の新興ブランドはデジタルに精通し、中国製という利点を中国人消費者への売り込みに使えることから若い購買層の支持を集めていると、シャネルのリーナ・ネアCEOは指摘する。

 ネア氏は「ブランドの永続を当然視することはできない。人々の意識に残り、アイコニックであり続けるためには、常に時流に即し、モダンであることが欠かせない」と述べた。

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