「強い企業による商習慣の暗黙の世界観があった」と丸山氏は振り返る。日本のB2B取引で最も根深い問題は、商習慣に根ざした力関係の固定化だ。強いバイイングパワーを持つ大企業が取引条件を決定し、サプライヤー(売り手)はその意向に従わざるを得ない構造が長年続いてきた。
手形文化もその象徴だ。支払期日を先延ばしにする手形は、買い手企業のキャッシュフローを改善する一方で、売り手の資金繰りを圧迫する。しかし「そういうものだ」という暗黙の了解のもと、この非効率なシステムが維持されてきた。
これらの課題に加え、海外と異なる日本特有の事情もあった。「海外は振込がそこまで便利ではない、与信が難しい」一方で、日本では銀行振込システムが比較的発達していたため、変革への切迫感が乏しかった。
長年にわたって企業間取引を支配してきたこれらの要因。しかし、日本社会全体を巻き込む大きな潮流を背景に、今変化が始まっている。
「本丸の効率化に一気に波が来た」と丸山氏は表現する。20年間動かなかった市場の変化の背景には、3つの大きな要因があった。
まず、B2C分野でのキャッシュレス普及が決定的な下地を作った。「B2Cの下地ができた。キャッシュレスは当たり前」と丸山氏が指摘するように、個人向け決済でスマートフォン決済やクレジットカード決済が急速に浸透したことで、企業側の意識でも受け入れ体制が整った。
次に、DXの進展が隠れていたコストを可視化した。「誰かがコストを負担していたというのが見える化できた」と丸山氏は分析する。業務プロセスのデジタル化により、これまで各部署に分散していたコストが統合的に把握できるようになった。「やり取りのコスト、調達のコスト、結構かかってるよねと気づかされてきた」(丸山氏)のである。
労働市場の変化も追い風となった。「以前は振込に時間がかかっても人手でなんとかしていたが、そこに人件費を充てる余裕はない」(丸山氏)という状況が生まれ、手作業による非効率な業務を続けることが困難になった。
さらに、政府による制度変更が立て続けに実施されている。2022年の改正電子帳簿保存法、2023年のインボイス制度、そして2026年の約束手形廃止。これらの制度変更は、企業に決済プロセスの見直しを迫っている。
商習慣そのものにも変化の兆しが見える。丸山氏は「強いバイイングパワーを持つ側が有利という状況から、取引関係がイーブンになっていく流れがある」と指摘する。フリーランスや中小企業の発言力が向上する中で、大企業と小企業が「対等にやっていこう」という方向に変化しつつある。一方的に不利な条件を押し付けられる構造は持続困難になっている。
これらの変化が重なった結果、B2B決済市場にも大きな動きが現れ始めている。実際のデータを見ると、市場の転換点を示す数字が浮かび上がってくる。
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