新時代セールスの教科書

SaaSはもう限界──営業の“暗黙知”を資産に変えるAIエージェントの可能性(4/4 ページ)

» 2025年10月21日 06時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]
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営業の枠を超えた展開も

 Efficは現在、5段階のロードマップを描いている。第1段階は商談の分析による組織知の蓄積、第2段階は個別メンバーへのコーチングやロールプレイング支援だ。今後は第3段階として新規リードへの即時フォローアップ、第4段階で予算管理やKPI設計の支援へと進化する。最終的には第5段階として「デジタルワーカー」となり、人と同じように営業を考え、働く存在を目指す。

 菅藤氏が見据えるのは、営業の枠を超えた展開だ。「営業マンのためだけではなく、その先の顧客のためにプロダクトを作っている」。顧客が正しい情報を得て、正しく判断できる状態を作ることが本質だという。

 具体的には保険募集人への応用を検討している。情報の非対称性が高く、顧客の不安を煽れば契約が取れてしまう業界だ。だが法律で言ってはいけないこと、言わなければいけないことが細かく定められており、難易度は高い。「顧客本位とは何か、どう売るべきかを構造化できれば、世の中に貢献できる」と菅藤氏は語る。

 「セールステックから始めているが、営業に限定するわけではない。コミュニケーションテック、ヒューマンテックとしての位置付けだ」(菅藤氏)

 Efficのテクノロジーは、上司とメンバーの1on1、カスタマーサクセスと顧客の対話など、あらゆる専門的なコミュニケーションの質を高める可能性がある。

Effic CEOの菅藤達也氏

 菅藤氏は2012年に会計事務所向けSaaSのクラビスを創業し、全国上位100社の会計事務所の7割以上に導入されるまで育て上げた。2017年にマネーフォワードへ売却後、同社でCSOとして数々のM&Aや海外展開を手掛けた。2度目の創業となるEfficでは、SaaS時代に感じた限界を超えようとしている。

 「SaaS時代は人間に作業を強いた。AI時代は先回りして価値を提供する」。菅藤氏のこの言葉は、AIの本質を表している。単なる会議の文字起こしやRAGによる情報検索ではない。商談を構造化し、組織知として再利用可能にする。この仕組みこそが、企業の生成AI活用を業績向上に直結させる鍵となる。

 従来の生成AIツールは、既存の業務を効率化することに主眼を置いてきた。だがEfficが目指すのは、人の創造性を引き出すことだ。若手営業が恐怖心なく顧客の本音を引き出せるようになる。マネジャーがバイアスなく組織を把握できるようになる。これらの変化が積み重なることで、営業組織全体の質が向上し、業績に反映される。

 この思想は営業にとどまらない。保険、不動産、医療、法律など、専門知識と顧客とのコミュニケーションが重要な職種は数多い。AIネイティブな設計で、こうした領域の暗黙知を組織資産に変えていく可能性がある。単なる業務効率化ではなく、組織の知的資産を構築する。Efficの取り組みは、生成AIの、これまでになかった本質的な活用法として注目される。

Effic CEOの菅藤達也氏(左)、マネーフォワード ビジネスカンパニー リーガルソリューション本部の高木雅史本部長(右)
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