こうした課題を解決するため、同社はDAPツール「テックタッチ」を導入し、基盤システムの改革に踏み切った。ポイントは、電話着信のタイミングで応対ガイドが自動表示される仕組みができたことだ。
「電話が鳴ったタイミングで、どの会社やサービスに対する入電かはもちろん、『何と名乗ればいいのか』『ヒアリングすべき内容は何か』『使用するツールはどれか』を自動案内してくれるようになったのです」(岡部氏)
これにより、オペレーターは迷うことなく対応を進められるようになった。さらに、顧客管理システムへの記録方法も改善した。プルダウン形式を導入し、登録すべき情報の粒度を分解して記録する導線を整備した。
「お客さまの実際のお問い合わせと、それに対してサポートした内容を記録した上で、問い合わせの目的、つまり潜在ニーズを把握できるよう、プルダウン式で聞くべき内容を表示しています」
例えば、技術サポートの窓口で「動画配信サービスの視聴方法を教えてほしい」と問い合わせが来たとする。表面的には「使い方の問い合わせ」だが、その背後には「家族で楽しむためには、どんな使い方が適しているか知りたい」という潜在ニーズが隠れているかもしれない。プルダウンで情報を分解して記録することで、こうした潜在ニーズを可視化できるようになったのだ。
必要な内容が全て記録されているか、情報を送信する前にセルフチェックできる機能も充実させた。ブラウザ上にチェックボタンを用意し、それを押すことで確認すべき箇所がハイライトで順次表示されるようになった。
「スタッフが不安に思うこと、迷うことを極力抑止していく。それが、私たちのシステム更新の基本方針です」(岡部氏)
では、こうした改革により、どのような成果が得られたのだろうか。
効果は、具体的な数値として表れている。岡部氏が示したデータによれば、新人の立ち上がり期間は従来の1カ月半から、2週間へと短縮された。新人の処理時間は75%縮小し、ベテランスタッフとの差が大幅に改善された。
オペレーターから管理者への質問も、従来と比較して90%削減された。センター全体の処理速度も向上。平均処理時間が40%も削減できた。
オペレーターからの反響も上々だ。折戸氏は手応えをこう語る。
「スタッフからは、『こんなことまでシステムがしてくれるんですか!』という喜びの驚きの声があがっています」
特に評価されているのは、心理的な安心感だ。従来のオペレーターは、電話をしながら調べ物をし、会話の内容を記録するといった複数の作業を同時にこなさなければならなかった。
限られた時間の中で、相手の困りごとや気持ちを汲み取りながら、マルチタスクをこなせるメンバーも存在する。しかし、新人も含めたメンバー全員にそのレベルを求めるのは、現実的ではなかった。
しかし、今回のシステム更新により、その状態が絵空事ではなくなってきた。オペレーターの高いレベルでの独り立ちが進んだ結果、管理者も本来の業務に集中できるようになった。これまでは、オペレーターの新人教育やエスカレーション対応に大幅に時間を割いていたが、チーム全体のパフォーマンス向上やクライアントのカスタマーサクセス向上といった、より高度な問題解決へとシフトしている。
同社はさらなる改善にも取り組んでいる。その一つが、生成AIを活用した内製のロールプレイングだ。生成AIが顧客役を担当し、それにオペレーターが応えて練習できるツールを活用する。
「このロールプレイを繰り返すことで、最終的には顧客の潜在ニーズまで行き着けるような質問の仕方を身につけるトレーニングをしています」(岡部氏)
システム更新により、応対の型は標準化された。次のステップは、その型の中で顧客の本質的なニーズを引き出す力を高めることだ。生成AIを活用したトレーニングは、その実現に向けた取り組みと言える。表面的な問い合わせに答えるだけでなく、その背後にある顧客の真の課題を理解し、解決する。これが、カスタマーサクセスの本質だ。同社はデジタル技術を活用しながら、この本質を追求しているのだ。
一方、課題も残っている。
「現状、これらの取り組みができているのは、まだ一部のシステム、業務のみです。また、シェアード型センター全体への展開もこれからです。黒崎サポートセンターでの取り組みを、他の業務や拠点にも段階的に展開していければと考えています。全社的な品質向上と、顧客満足度のさらなる向上を目指していきたいですね」(岡部氏)
岡部氏は最後に、改革の根底にある思いを語った。
「なによりも、メンバーが安心して働ける環境を作っていきたいんです。そのためにできることを、引き続き取り組んでいきます」
シェアード型という複雑な運営体制だからこそ、デジタル技術を活用してオペレーターの負担を軽減し、品質を高める。パーソルコミュニケーションサービスの挑戦は、コンタクトセンター業界全体への示唆に富んでいる。
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