FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックスタートアップにて金融商品取引業者の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、広告DX会社を創業。サム・アルトマン氏創立のWorld財団における日本コミュニティスペシャリストを経てX Capital株式会社へ参画。
かつて「働き方改革」や「ギグエコノミー」の旗手として急成長を遂げたプラットフォーム企業は今、深刻な岐路に立たされている。その背景として挙げられるのが、生成AIの急速な普及だ。
市場を牽(けん)引してきたココナラや、業界最大手のクラウドワークスの株価パフォーマンスは、その苦境を如実に物語っている。
東証市場全体の値動きを示すTOPIXは、生成AIが広く普及し始めた2023年以降、60%を超える力強い上昇率を見せている。その反面、ココナラとクラウドワークスの株価は11月4日の時点でそれぞれ26.18%、57.13%も下落しており、市場平均を大幅に下回っているのだ。
市場は「AIによる仕事の代替」が、クラウドソーシング企業の成長性を根本から毀損(きそん)するのではないかという強い警戒感を抱いている可能性がある。
クラウドソーシング市場が成長してきた要因としては、「議事録の書き起こし」「ブログ記事作成」「ロゴデザイン」「データ入力」といった、特別なスキルがなくても比較的定型化しやすく、参入障壁の低い業務の受発注が活発だった点にある。
しかし、ChatGPTに代表される生成AIは、まさにこれらの領域で急速に市場を侵食しつつある。議事録や記事、翻訳作業などは、無料の生成AIサービスでも人間と同じか、それ以上の速度と品質を提供するケースも珍しくなくなった。
この影響は、海外でも表れている。
海外のクラウドソーシングプラットフォーム「Upwork」のデータを分析したレポートによれば(※1)、ChatGPTが登場して以来、2024年2月までの間にライティング案件が33%、翻訳案件が19%減少している。
(※1)技術インテリジェンスおよび採用データ分析を手掛ける米Revealeraのヘンリー・ウイング・チウCTOが同社の技術ブログBloomberryで11月2日に発表した。
発注者側は、AIで代替可能な業務への支出を絞り自分たちで内製してしまうか、AIを使っている前提で低単価の発注を試みる。結果として、プラットフォーム上では「AIでもできる仕事」の単価下落圧力が強まり、プラットフォーム側にとっては得られる手数料が少なくなるという影響をもたらす。
低単価案件の比率が上昇すれば、たとえ取引件数を維持できたとしても、取引総額(GMV)が伸び悩み、収益性が悪化する懸念が現実味を帯びてくる。
ココナラやクラウドワークスもAI時代の到来について指を咥えてみているだけではない。
ココナラはAIを「摩擦の削減」ツールとしてプラットフォームに深く組み込み、マッチングの質と効率を高めるために利用するという。具体的には、11月に開始した「ココナラAIスタジオ」や、7月に実装した仕事依頼の自動作成機能を通じて、発注のハードルを下げ、マッチングの総数を増やそうとする試みだ。
同社の決算説明資料によると、購入ユニークユーザーは目下で頭打ちからやや縮小トレンドに入りつつある様子がうかがえる。絶対値としても2022年第4四半期から増加していない点が気がかりだ。
一方で、弁護士による法律相談のマーケットプレイスはAI時代においても堅調な伸びを示しており、前年同期比の売上高成長率もマーケット全体の8.3%の倍近くの水準である15.9%に達している。法律相談を除くカテゴリでも1人当たり購入金額が増加していることから、ココナラでは低単価の仕事よりもそれ以上に専門性が顧客に求められている様子がうかがえる。
また、同社は一顧客あたりの規模が大きい法人向けの「ココナラアシスト」のようなプロ人材のB2Bエージェント事業を強化している。ココナラはAIでは代替困難な、高度な専門性を持つプロフェッショナル人材と顧客を結びつける、高単価サービス市場へと軸足を移すことで成長路線を維持しようとしているのだ。
一方、クラウドワークスは、より踏み込んだ「事業転換」によってAI時代に対応しようとしている。
4月には同社の経営直下に「AX(AI Transformation)戦略室」が設置した。これにより、全社的な業務プロセスにAIを導入するとともに、そこで蓄積した生産性向上のノウハウ自体を、顧客企業に「DXコンサルティング」として提供する事業を本格化させている。
コンサルティング事業については、法人利用に特化した生成AIツールの提供や、AIを使いこなすための対面式リスキリング事業などを展開。これは、単なる仕事の「仲介」から、企業のAI変革支援という、より上流のソリューション提供へのシフトを意味する。
同社は10月に「クラウドワークス コンサルティング」を設立した。2030年9月期までに売上高100億円を視野に、特に人材や予算が不足しがちな中小・地方企業のDXおよびAI化の需要を取り込む「DXコンサルの民主化」を成長戦略に掲げる。
クラウドソーシング業界の株価低迷が示すように、市場は「AIによる代替」という脅威を目下で強く意識している。
しかし、ココナラもクラウドワークスも直近の売上高自体は伸びている点は見過ごしてはならない。AI時代がクラウドソーシング業界に与える影響を細分化すると「AIでもできる仕事」の需要は減り、「AIを活用する仕事」や「AIでは代替できない高度な仕事」の需要は堅調に推移しているという分類がより正確な捉え方であるといえるだろう。
つまり、AIの登場は脅威であると同時に、業界の「質への転換」を促す好機でもある。 第一に、「AIに的確な指示を出す」プロンプトエンジニアリングという新たなスキルや、「AIの生成物を監修・編集する」といった高度な専門性が求められる限りクラウドソーシング業界の先行きを過度に悲観する必要はない。
両社がこの荒波を乗りこなし、AIを「脅威」から「成長エンジン」へと転換できるか。
クラウドソーシング業界もまた、「単純作業の仲介」という旧来のモデルの負債を精算する時を迎えている。
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