リテール大革命

“韓国ブランド偽装”で世界を席巻 中国発雑貨のグローバル戦略から、日本企業が学ぶべき2つの教訓がっかりしないDX 小売業の新時代

» 2026年01月19日 07時00分 公開
[郡司昇ITmedia]

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連載:がっかりしないDX 小売業の新時代

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グローバル進出が続く中国発雑貨ブランド

 韓流ブームを巧みに取り込み、“韓国っぽさ”を全身にまとった中国発雑貨ブランド「MUMUSO」(ムムソウ)が世界を席巻しています。

 世界で急成長する中国発雑貨について、本連載では過去に「MINISO」(メイソウ)と「YOYOSO」(ヨヨソウ)のビジネスモデルを紹介しました。MUMUSOはこれらに続く第3の雑貨ブランドに位置付けられます。

(関連記事:ユニクロやDAISOにそっくり? ナゾの中国発雑貨「メイソウ」が、世界中で高速出店できるワケ

(関連記事:SHEIN、Temuだけじゃない 中国発ファスト雑貨のビジネス戦略を深掘り 超高速サイクルどう実現?

 MINISOが当初は日本を意識させる“偽装ブランド”との非難を浴び、YOYOSOが比較的ニュートラルな路線を取る中、MUMUSOは“韓国ブランド偽装”という、他の2社よりもより大胆な戦略を展開しています。

 2024年時点でMINISOが6868店舗、YOYOSOが1000店舗を展開する中、MUMUSOも50カ国以上で2000店舗を超える規模に達しており、この市場セグメントの拡大は注目に値します。

 しかし、急速な拡大の裏側には、上述のように“韓国ブランド偽装”と指摘されてきたマーケティング手法が存在し、各国当局の監視強化や、SNS時代の炎上リスクといった構造的な課題も抱えています。

 今回はMUMUSOのグローバル戦略を追いながら、日本の小売りが持続的競争力を築くために注目すべきポイントを前編、後編に分けて探ります。

MUMUSOのグローバル戦略を追いながら、日本の小売りが持続的競争力を築くために注目すべきポイントを探る。写真はMUMUSO Dubai Festival City Mall店(2025年10月、筆者撮影)

著者プロフィール:郡司昇(ぐんじ・のぼる)

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20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。

現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」シニアフェロー Nextリテール分科会リーダーなどを兼務する。

公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇

公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質2025DX


 MUMUSOはアラブ首長国連邦(UAE)で現地フランチャイズパートナーであるAlfahim HQと提携し、Dubai Mallの2店舗をはじめとしてDubai Festival City Mall、City Walk、Abu Dhabi Mall、Marina Mallなど、主要ショッピングモールに20店舗以上を展開しています。

 筆者がグローバルブランドの小売店舗運営を代行する中東のコングロマリットと話をしたときに、「以前はDAISOが最も人気のある雑貨店だったが、今はMUMUSOがNo.1だ」と聞きました。

 なお、筆者が訪れたDubai Festival City MallではDAISOも集客力が高く、客を奪われているというよりも、雑貨セグメントを複層化し、モール側のカテゴリー戦略を補完しているように見受けられました。

DAISO Dubai Festival City Mall店(2025年10月、筆者撮影)

韓流ブームを巧みに取り込む MUMUSOの“韓国風”浸透戦略

 MUMUSOが規模を拡大する背景には、中東での韓流ブームがあります。韓国食品医薬品安全処(MFDS)の報告によると、韓国美容製品のUAE輸出額は2024年に9000万ドルから1億7000万ドルへと約89%増加しています。

 K-POPグループやK-ドラマは中東の若者の間で絶大な人気を誇っており、韓国スタイルへの憧れが消費行動に直結しています。MUMUSOはこのトレンドを巧みに利用し、中国企業による運営でありながら、韓国化粧品なども販売することで、韓国ブランドとしての付加価値を獲得しているのです。

 MUMUSOは2014年10月に上海で設立された「上海木木生活貿易有限公司」が展開する生活雑貨チェーンです。社名の「木槿」(ムクゲ)は韓国の国花であり、最初から韓国イメージを意識した命名となっています。

 最大の特徴は、ロゴに「KR」の文字を配置し、店舗内外に韓国語(ハングル)を多用する“韓国ブランド偽装”です。かつては、店舗マネジャーに「本社はソウル」と回答させるマニュアルまで存在したと報じられています。

最大の特徴は、ロゴに「KR」の文字を配置し、店舗内外に韓国語(ハングル)を多用する“韓国ブランド偽装”だ(2025年10月、筆者撮影)

 MUMUSOは2014年に韓国にペーパーカンパニーを設立し、住所のみを借用して韓国企業としての体裁を整えました。しかし、実際のオフィスは空室で、スタッフも設備も存在せず、2019年には韓国政府から会社登録抹消命令を受けています。それにもかかわらず、MUMUSOはこの命令を無視し、現在も「韓国風」ブランドとして営業を継続しています。

「伝統小売の最大のボトルネックは体験感」 MUMUSOはどう変えた?

 MUMUSOが急成長する要因は韓流だけではありません。同社は店舗を単なる販売拠点ではなく「体験プラットフォーム」として再定義しています。

 MUMUSOのCEO夏春雷氏は、2017年に「体験感こそが伝統小売の最大のボトルネック」と明言し、「情景化陳列」という独自のディスプレイ手法を確立しました。これは商品を単に棚に並べるのではなく、実際の使用シーンを演出する陳列方式です。例えば、化粧品コーナーではK-POPアイドルのメイクルームを連想させる空間設計を施したりしています。

 同時期に開発したオリジナルキャラクター「MUMUSO FAMILY」も重要な役割を果たしています。MuMu、Ala、Cluck、Anne、Alen、GuGuといった複数のキャラクターを店舗全体に配置し、単なるマスコットではなく商品化・空間演出・SNS展開を統合して機能させています。

 中東や東南アジアの若者の間では、MUMUSOで買い物をする際に店内のキャラクターと一緒に撮影した写真をInstagramやTikTokに投稿することが一種のステータスとなっており、この「打卡文化」(インスタ映え文化)が無料の口コミマーケティングとして機能しています。

MUMUSO Dubai Mall店(2025年10月、筆者撮影)

 さらに特筆すべきは商品回転の速さです。MUMUSOは商品企画から市場投入まで平均45日という期間で、毎週100品目の新商品を投入しています。日本でこのレベルのスピード感で新製品を投入しているのは、大手コンビニエンスストアチェーンくらいでしょう。これをグローバル展開するためにはサプライチェーン整備が欠かせません。

 常に新製品が投入されるため、生活者に「また行けば新しい発見がある」という再訪動機を生み出しています。取り扱いSKUは2万にも及び、手頃な価格帯で提供しています。

 MUMUSOは「ニューリテール」を掲げ、デジタル技術の活用もうたっています。UAEではクイックコマースのNoon.comでのオンライン販売やTalabatを通じたデリバリーサービスも展開しています。

 もっとも、オンラインチャネルはまだ成功しているとはいえません。公式には「オンライン・オフライン両チャネルで成功」とうたっているものの、オンライン売り上げの具体的数値は一切公開していません。グローバル売り上げの大半はオフライン店舗と推定され、オンライン比率は10%未満の可能性が高いと考えられます。

 競合のMINISOが2024年Q1の海外事業で前年比41%増を記録し、積極的なオムニチャネル統合を推進している中、MUMUSOのデジタル戦略は後れを取っています。

 MUMUSOはニューリテールを標榜するものの、実態はデジタライゼーション段階にとどまっています。真のDXには至っておらず、ビジネスモデルそのものの変革までは実現していないのが現状のようです。

急成長の裏に潜む“偽装リスク” 当局監視とブランド毀損の危うさ

 ここまでMUMUSOの急成長を支える要因を見てきました。韓流ブームへの便乗、体験型店舗設計、高速商品回転という3つの柱は強力で市場浸透に成功しています。しかし、このビジネスモデルには構造的なリスクが内在していることを指摘しておく必要があります。

 韓国の公正取引委員会からの是正命令、中国の国家工商行政管理総局による規制強化など、各国当局は偽装マーケティングに対する監視を強めています。

 SNS時代においては、「偽装」という事実は瞬時に拡散し、ブランドイメージの毀損につながります。一度失った信頼を取り戻すことは極めて困難であり、長期的なビジネス継続性にも影響を与えるでしょう。

 実際、韓国SBS新聞の報道以降、東南アジアを中心にMUMUSOの「偽装」に関する認識は広がっています。それでも売り上げが維持されているのは、若年層の顧客が「本物の韓国ブランドかどうか」よりも「韓国スタイルを体験できるかどうか」を重視しているからなのでしょう。しかしながら、長期的に持続可能なビジネスモデルかは疑問が残ります。

日本の小売業が学ぶべきは何か “本物の価値”を体験化する時代へ

 MUMUSOの事例は、日本の小売業に2つの重要な教訓を示しています。

 第1に、国籍ブランドだけでは勝てない時代になったという現実です。MUMUSOが中国企業でありながら韓国風で成功している事実は、消費者が「どこの国の製品か」よりも「どんな体験ができるか」を重視し始めていることを示しています。裏を返せば、「日本製」というラベルだけでは生活者の心をつかみ続けることができないことを意味します。特に若年層はこの傾向が顕著です。

 第2に、本物であることの価値を積極的に発信する必要性です。韓国ブランドはK-POP、K-ドラマ、K-ビューティーといった文化的コンテンツと連動したマーケティングを展開しています。日本企業も、単に「Made in Japan」をうたうだけでなく、日本の文化やライフスタイルを体験できる場の設計が求められます。

 重要なのは、MUMUSOの“偽装”戦略をまねすることではありません。むしろ、日本企業が持つ本物であるという強みを、体験価値として再定義することです。MUMUSOの事例は、ブランドの「国籍」が強力なマーケティング資産であることを示すと同時に、偽装に依存したビジネスモデルの脆弱性も浮き彫りにしています。

 品質と信頼性という日本ブランドの強みに、MUMUSOが実践している体験設計や高速商品回転のノウハウを組み合わせることで、偽装ブランドとは異なる持続可能な競争優位性を構築できるはずです。

 本物の日本を体験できる場としての店舗設計、SNS時代に適応したブランド発信、そしてデジタル技術を活用したオペレーション効率化。これらを統合することが、グローバル市場で日本の小売業が存在感を発揮するための道筋ではないでしょうか。

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