懐かしの「屋上遊園地」、なぜ今復活? 松坂屋の“逆張り戦略”地域経済の底力(3/4 ページ)

» 2026年03月03日 08時00分 公開
[伏見学ITmedia]

百貨店の「余白」の必要性

 今回の屋上遊園地のリニューアルは、松坂屋名古屋店本館および北館の計8フロアを対象とした大規模リニューアルプロジェクトの一環で進められた。屋上をそのまま放置する、あるいは閉鎖するといった判断もあったはずだが、なぜテコ入れしたのか。

 そこには池田氏自身の思い入れもあったという。

 「私自身、幼少期に家族で百貨店へ出かけ、母の買い物を待つ間、祖母や父と屋上で過ごした記憶があります。40代以上の方にお話しすると、誰もが同じような経験をされているのです」

 しかし、屋上遊園地はもはやビジネスモデルとしては完全に崩壊し、運営者はほとんど採算が取れない状態だった。それでも残す選択をした理由について、池田氏はこう説明する。

 「今の百貨店は余白がなくなりすぎています。ビジネスを成長させないといけないので、どんどん『売る場所』に変わってしまっているのです。そうした中で、当店の立地など、さまざまな環境を踏まえて、屋上遊園地はしっかりと残すべきだと考えました」

 池田氏は続ける。

 「屋上遊園地は、これまで歴史の中で積み上げてきたものやお客さまの思い出、家族の絆といったものが色濃く残っている場所です。それを残すことで、目に見えないプラスの効果が得られると感じました。また、開業からちょうど100周年という節目でもあり、チャレンジするには最適なタイミングでした」

 コイン遊具メーカーの協力も大きかった。屋上遊園地の管理・運営パートナーである加藤工業は、コロナ禍で厳しい経営状況にあったが、諦めずに付いて来てくれたという。「もし先方が『撤退させてもらいます』と言ったら、リニューアルは断念していたかもしれません」と池田氏は強調する。

リニューアル前の屋上遊園地(一般財団法人J.フロント リテイリング史料館提供)

 一方で、投資金額はリニューアルプロジェクト全体で約63億円。屋上遊園地だけでも数億円は投じている。経営層からの反対はなかったのだろうか。

 池田氏によれば、売り場外の共用部や屋上遊園地のような場所の改装を経験した人材が、社内にはいなかったことが影響しているという。

 「誰も異論を出しようがなかったというのが実情です。売り場であれば、年間でこれだけ売り上げて、その利益率が何%で、投資回収率が何%だから進めよう。この条件を満たしていないからやめようといった判断基準が明確に存在します。しかし屋上に関しては、そうした基準が特に設けられていませんでした」

 ブレインストーミングに近い形で経営層と方向性を擦り合わせていき、投資する金額と、完成物の出来栄えに対する承認を得ることができたため、リニューアルに着手することができた。

 結果として、屋上遊園地のリニューアルに成功。“新旧融合”の空間設計や、大人向けのイベントの実施などにより、屋上遊園地の月の平均売り上げを従来の2.5倍から3倍にすることができたのである(後編に続く)。

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