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日立・ソニー・三井化学が組む「企業間副業」 “武者修行”を組織の進化にどう生かす?

» 2026年03月04日 07時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

 働き方の多様化を掲げた働き方改革が動き出してから10年が経った。副業は、個人のキャリア形成や副収入源といった段階から、企業の「人財供給力」を左右する戦略的な投資へと変わりつつある。

 日立製作所が2024年に正式導入した副業制度には、ソニーグループや三井化学と連携した「企業間副業」がある。従来の枠組みを超えた制度の狙いは、社外での“武者修行”を通じて得た学びやスキルを、いかにして日立という巨大組織の進化へと還元させるかにある。グループ内全従業員のスキルの可視化は進んでいるものの、そこに副業で得た知見の集約化は道半ばだ。

 社外での経験を個人の成長だけで終わらせず、組織全体の進化につなげるには何が必要なのか。

 人財統括本部の小野遵英さん(人事勤労本部 トータルリワード部 労務・雇用企画グループ主任)に聞いた。

日立製作所 人財統括本部 人事勤労本部 トータルリワード部 労務・雇用企画グループ主任の小野遵英さん(以下撮影:河嶌太郎)

ソニー・三井化学と連携 企業間副業で新たな挑戦機会

――現在、日立・ソニーグループ・三井化学による相互副業の取り組みを進めています。これは具体的にはどのような仕組みなのでしょうか。

 ソニーグループとの相互副業は数年前から始まり、現在は三井化学を加えた3社で実施しています。各社が副業者を募集する案件を持ち寄り、その情報を3社間で共有します。

 社員が他社の募集案件を見て「この仕事をやってみたい」と応募し、双方が合意すれば受入企業と副業者間で契約を交わして副業が成立する流れです。いわば、企業間で連携する形の社外副業ですね。会社を通じて案件が提示されるため、完全な外部での副業よりも安心して取り組めるのが特徴です。

――社外副業の収入について、一定額を超えた場合に追加手続きが必要という規定はあるのでしょうか。

 基本的にはありません。社外副業の収入に関しては、確定申告を行う形です。本業分については通常通り年末調整をし、副業分は本人の所得に応じて確定申告してもらいます。したがって、副業収入を本業の給与に合算するような仕組みは、会社としては設けていません。

SEが人事システムを支える社内副業の相乗効果

――日立では社外に限らず、社内副業制度も導入しています。どのような位置付けなのでしょうか。

 社内副業は、どちらかというと社外とは目的が少し異なります。こちらは「このプロジェクトでこのスキルを必要としています」と社内で募集をかけ、それに応じて手を挙げた従業員が兼務する形です。例えば、日立グループ内で進めている新しいシステム案件や業務改革プロジェクトなどに、専門スキルを持つ従業員が参加するものがあります。

 これによって「日立で別の部門の業務を経験し、自分のスキルを広げたい」という社内のニーズに応えることができます。社外副業がキャリアの「外への拡張」だとすれば、社内副業は「内なる協働」を通じたキャリアの深化という位置付けです。

――どういった従業員が社内副業をしているのですか。

 同じ人事系の部門でも、例えば本業がシステムエンジニアの従業員が、兼務でキャリア形成支援の仕事に携わるケースがあります。例えばキャリア研修のシステム構築やキャリア面談のツール設計を担当するような形ですね。ただ、そこでいわゆるキャリアコンサルティング業務そのものを担うわけではなく、技術者としてITシステム構築を支援するイメージです。

 つまり、「キャリア支援」というテーマであっても、実際の仕事内容は技術系の延長線上にあります。エンジニアとしてのスキルを生かして社内の仕組みを支える形になっています。本業とは別領域でありながら、自分の専門を生かせる点が社内副業の魅力だと思います。結果的に、全く異なる部門同士が協働するきっかけにもなっています。

――制度の試行導入時期が2023年10月とのことですが、コロナ禍が明けてからの制度開始は少し遅れた印象もあります。その理由はどこにあったのでしょうか。

 制度設計に時間を要したのが一番の要因だと思います。日立のように従業員数が多く、事業領域も幅広い企業では、従業員が安心して利用できる仕組みを整えることがとても重要です。当時は他社でも副業解禁の動きが活発化していた時期で、国内外の事例を幅広く調査しながら制度を練り上げていった背景があります。

データ蓄積の先にある課題 スキルの「見える化」を組織の「生かす化」へ

――現在、制度運用上の課題と感じている点はありますか。

 挙げるとすれば、副業で得た経験を組織としてどう生かすか、そしてそれを「見える化」することの難しさです。副業を通じた学びやスキルを本業にどう還元しているかを可視化するのは簡単ではありません。また、副業だけでなく、資格取得や語学学習、オンライン講座などによって自己成長を目指す従業員も多く、リスキリングやアップスキリングの手段は多様化しています。

 当社では社員が自分のスキルや経験を登録できる人材データベースを設けています。ただ、まだその情報を一元的に活用して「この人ならこのプロジェクトに適している」といったマッチングまで進んでいるわけではありません。副業や学習の成果をより効果的に生かす仕組みづくりが、今後の課題だと考えています。

――日立では従業員のスキルを可視化する仕組みは、どう構築しているのですか。

 当社では、グループ全体の従業員情報を集約したシステムを運用しています。これは管理職だけでなく、全従業員が閲覧できる仕組みで、職務経歴や保持スキルがデータベース化されています。いわば社内版の人材プラットフォームのようなもので、スキルの可視化という面では既に実現できています。

 課題は、可視化したスキルをどう組織に生かすかという点です。スキル情報自体は簡単に検索、抽出できますが、データを組織を構成する際の判断にどう生かしていけるかが今後の課題だと感じています。

副業経験が「阿吽の呼吸」に頼らないマネジメントに

――マネジメントや人材育成の面では、副業経験がどのように影響しているとお考えですか。

 副業の有無に関係なく、今の働き手は非常に多様なバックグラウンドを持っています。国籍・性別・入社経路・キャリアの長さなど、全員が異なる価値観を持っているのが今の職場の現実です。そうした中で、従来の阿吽(あうん)の呼吸のようなマネジメントは通用しません。

 その点、副業を通じて異業種の人と仕事をした経験は、組織内コミュニケーションやマネジメントの仕方に良い影響を与えています。異なる価値観を持つ人との対話力や、状況に応じて仕事を分担・調整するスキルが自然と身についており、それが結果的に職場全体の多様性を生かす力になっていると感じています。副業で培った外の視点を持ち込む従業員が増えることで、組織としての柔軟性も一層高まっていくと期待しています。

――副業制度を通じて従業員のキャリア自律を促す考え方を強調していますが、日立として「自律」をどのように捉えていますか。

 社員自らが「自分で考える力」こそが自律だと思っています。現在、日立では統合報告書の中で、「高いパフォーマンスを生み出す組織の在り方」を定義しており、その中で重視しているのが、「成長マインドセット」と「チャレンジする行動」です。この「チャレンジする行動」こそがキャリア自律の根幹だと考えています。

 副業もその一つの形です。社内外での活動を通じて異文化や異業種の環境に触れ、自分のスキルや視野を広げる。その経験が本業での成果や成長につながることが多く、目に見える形で還元していると思います。こうした「チャレンジする行動」を日立として積極的に後押ししていきたいと考えています。

「チャレンジする行動を日立として後押ししていきたい」と語る小野さん

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