JR東日本は3月14日、運賃(乗車券や定期券)の全面的な改定(値上げ)を実施した。消費税の転嫁を除けば、1987年の発足以来、初めてとなる。なお、特急料金などの「料金」は今回見直されず、従来の水準が維持されている。
多くの鉄道会社も同様だが、日本最大の鉄道会社であるJR東日本は、約40年にわたり運賃水準を据え置いてきたことになる。1987年はバブル期に当たるが、消費者物価指数(2020年を100とした場合)で見ると当時は84.4、2025年は111.9だ。こうした変化を踏まえると、この間、運賃を維持してきたのは「よく耐えてきた」とも言えるだろう。
例えば、JR発足直後の1988年3月、上野〜仙台間を東北新幹線「やまびこ」で移動する場合、運賃は乗車券5500円と特急料金4400円の合計9900円だった。これに現在の消費税率10%を当てはめると1万890円となる。この金額は、今回の改定前における同区間の運賃と特急料金の合計とほぼ同水準だ。
今回の運賃改定について、社会情勢を踏まえて整理してみよう。鉄道は自動化が進んでいるとはいえ、依然として多くの人手を必要とする「労働集約型産業」だ。人件費の負担が大きいのは避けられない。
高卒採用者は、運転士や車掌、駅員といった現場の主力を担うため採用数も多い。JR東労組の資料によると、1987年度の初任給は10万3600円だったが、2025年度は22万1365円まで上昇している。賞与も含めると、高卒新人を1人採用した場合、年間で約300万円の人件費増となる。少子高齢化が進む中で人材確保は難しく、待遇改善のために人件費を引き上げざるを得ない状況だ。
加えて、電力などの動力費や、線路・駅・車両といった設備の維持管理費もかかる。バブル崩壊後、日本は長くデフレ基調にあり、2020年代初頭まで消費者物価指数は90台で推移してきた。しかしその後は、戦争などの国際的な情勢も相まって、物価が再び右肩上がりの時代となり、鉄道会社の経営を直撃した。
資源エネルギー庁の資料(PDF)では、産業向け電気料金は2021年まで1kWh当たり20円以下で推移していたが、原油価格の高騰を受けて、2022年には27.55円まで跳ね上がった。こうしたコスト増が鉄道会社の経営に与える影響は小さくない。家庭用電気料金の値上げが注目されがちだが、産業界も同様に負担が増している。
2023年度の資料(PDF)によると、JR東日本の年間使用電力量は約57.6億kWhに上る。このうち約59%にあたる約34.1億kWhは自社発電でまかなっているが、そのうち約23.4億kWhは石油や天然ガスを用いた火力発電によるものだ。原油価格の高騰は一例にすぎないが、こうした外部環境の変化が経営に影響を与えている。
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