社内への共有は2023年7月の全社集会で行われ、当時の日本事業トップが男女賃金格差の分析結果と報酬調整について説明し、その場で質問も受け付けた。
「一部の女性の報酬が上がることを示しているので、批判が出るかなと懸念していたのですが、実際は肯定的な反応が多かったです。『これまで社会で再生産されてきた格差をメルカリで止める』ことは、社会的にもポジティブなインパクトがあると受け止められました」
質問としては「説明できない格差に対するアクションは理解したが、通常の賃金格差にはどのように対応するのか」「格差の指標が±1%という数字はどのように設定したのか」「ジェンダーは本人の性自認や生物学的な性別などが挙げられるが、どういった情報を基に判断されているのか」などが寄せられた。
これらの質問に対し、どのように回答したのか。通常の賃金格差については、いわゆるクオータ制のように結果の平等を直接的に担保するのではなく、「機会の平等」に重きを置いていると説明。
「例えば、採用において、そもそも候補者が全員男性だった場合、結果として男性しか採用できません。こうした状況を防ぐため、面接に進む候補者、すなわち候補者プールの男女比をKPIとして設け、多様な人材が選考プロセスに乗る状態を担保しています。もちろん、職種によっては女性人材がそもそも少ないケースもあるため、KPIは一律ではありません。職種や労働市場の状況に応じて設定しています」
候補者プールの多様性を確保することで、結果として女性の採用や登用が進み、ハイレイヤーに占める女性比率の向上が実現する。
また、ジェンダーの定義については、個々人の性自認を尊重する姿勢を前提としつつも、今回の分析および方針は、日本の法制度が法的性別に基づいて設計されている点を踏まえ、法的性別を基準に実施していると回答した。
全社集会を踏まえ、「説明できない格差」を解消するための報酬是正を同年8月に実施した。該当者と是正金額の算出については「階層ベイズモデル」という分析手法を活用。職種や等級、これまでのパフォーマンスや評価といった指標を踏まえ、「この社員が男性だった場合に適切と考えられる賃金水準」を統計的に算出し、是正金額を決定した。
算出結果に基づき報酬調整を実施した結果、7%あった「説明できない格差」は2.5%に縮小。その後も半年ごとに重回帰分析でモニタリングを続け、2024年6月は2.3%、2025年6月には1.4%まで改善した。
報酬調整は2023年8月の1度にとどまり、その後は採用の見直しによってギャップの縮小を図っている。
「採用時に『前職の給与を反映しない』という対応を取っています。社内の『説明できない格差』は報酬調整で是正しているため、採用段階での対応によって格差は自然と縮小していくと考えています。加えて、採用・評価・登用において不合理な格差が生じていないかについても、それぞれのタイミングにデータ分析を行いモニタリングしています」
採用や評価の各プロセスで格差が生じないよう運用を徹底してきた結果、2025年6月の大きな成果につながった。目標達成も視野に入る中で、中田氏は「目標達成後の水準維持というフェーズに移りつつあると感じています」と話す。
「仮に数値が0になれば理想的ですが、それを維持するのは容易ではありません。±1%以下は統計的にも誤差の範囲とされるため、数値に過度にとらわれず、半年ごとの分析と日々のモニタリングを継続していきます」
単発の是正ではなく、仕組みとして格差を抑え込む。メルカリのアプローチは、今後企業に求められる開示のあり方に一石を投じているといえるかもしれない。
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