沈みゆく「百貨店」 老舗の暖簾を脱ぎ捨て転生した地方企業の“したたかな”生存戦略前編(1/4 ページ)

» 2026年03月30日 08時00分 公開

 かつて百貨店は「街の顔」と呼ばれ、都市の中心ににぎわいを生み出す存在だった。しかし今、その百貨店が大きな転換点に立たされている。

 百貨店を取り巻く経営環境は、競争の激化や少子高齢化の進展を背景に年々厳しさを増している。そうした中、近年は老舗百貨店の強みである好立地を生かして専門店街ビルへと姿を変えたり、一部フロアをオフィスやホテルに転用したりするなど「百貨店からの業態転換」によって生き残りを図る動きが広がっている。

 さらに、その変化は店舗のかたちのみに留まらない。百貨店を運営してきた企業の中には、百貨店事業そのものから完全に撤退し、新業態へと舵を切ったケースもある。例えば「鹿児島三越」は不動産業へと変貌を遂げ、再び百貨店に近い業態へと返り咲いた企業だ。

 百貨店という歴史と伝統にこだわるのではなく、時代に合わせて事業そのものを大胆に変えていく──今回は前後編にわたって、百貨店の暖簾(のれん)を下ろしながらも、新たな業態へと転換することで再起を図った「生まれは百貨店企業」たちの現在を紹介したい。

全国で閉店が相次ぐ百貨店。一方で生き残りを図るべく違うかたちで「生まれ変わった」例もある(写真:若杉優貴)

著者紹介:若杉優貴(わかすぎ ゆうき)/都市商業研究所

都市商業ライター。大分県別府市出身。

熊本大学・広島大学大学院を経て、久留米大学大学院在籍時にまちづくり・商業研究団体「都市商業研究所」に参画。

大型店や商店街でのトレンドを中心に、台湾・アニメ・アイドルなど多様な分野での執筆を行いつつ2021年に博士学位取得。専攻は商業地理学、趣味は地方百貨店と商店街めぐり。

アイコンの似顔絵は歌手・アーティストの三原海さんに描いていただきました。


呉服店→百貨店→不動産業へ 水戸市「伊勢甚」のケース

 大正から昭和初期、文明開化によって生活の西洋化が進む中、呉服店から百貨店への転換が流行した。百貨店はやがて大都市から地方都市にまで店舗網を広げ、都市の一等地で「街の顔」となっていった。

 そうしたかつて街の顔でもあった老舗百貨店からの業態転換で多く見られるのが、立地を生かした「不動産業」への転換だ。

 例えば、水戸市で1724年に創業した呉服店を起源とする「伊勢甚」は、戦災にあったのち百貨店へと転換。1963年にはスーパー事業にも参入し、茨城県内各地に百貨店とスーパーを展開するようになった。

 しかし、茨城県内にも流通大手が多く進出するようになると、1977年に首都圏での店舗網拡充をめざすジャスコグループ(現・イオングループ)と業務提携を締結。一大チェーンを築いていた百貨店・スーパーをともにジャスコグループに移管し、百貨店の屋号も2005年までに消滅した。

 300年近い歴史を持つ小売業から事実上撤退した伊勢甚だったが、その看板が水戸市から消えたわけではない。伊勢甚グループは小売業の移管に伴い、不動産主業へと転換。小売部門を大手企業に一手に任せ、好立地にあった店舗の収益化を図ることで生き残りを狙った。

 伊勢甚は現在もイオン系を中心とした複数のショッピングセンターなどの土地を所有・管理している。また、水戸の一等地にあり、イオン系を経て2003年に閉店した旗艦店「伊勢甚水戸本店」の跡地には、店舗が狭く老朽化していた「水戸京成百貨店」を誘致(2006年新築移転開業)するなど「街の顔の再生」にも取り組んだ。

 創業から300年を迎えた伊勢甚は現在、茨城県内有数の不動産企業として知られている。

伊勢甚百貨店水戸本店跡に建つ「水戸京成百貨店」の吹き抜けから望む「伊勢甚本社」(写真中央)。伊勢甚は百貨店業から不動産主業に転換、水戸京成の不動産などを所有する。向かいにある「伊勢甚本社中央ビル」には百貨店時代と同じ「R」のようなマークが掲げられている(写真:若杉優貴)

 1615年創業の小間物店を起源とし、名古屋市の一等地・栄にあった老舗百貨店「丸栄」は、名古屋市内の百貨店競争が激しくなる中で、医薬品でも知られる商社「興和」(KOWA)の傘下に。2018年に百貨店業を廃業・閉店した。

 同社も「興和ファシリティズ」に改名して不動産業主業へと転換している。長年の営業経験を武器に、丸栄本店の跡地を含む名古屋市中心部の大型再開発にも参画する見込みだ。

名古屋の一等地にあった丸栄の後継企業も不動産が主業に。跡地には後継企業により3階建ての「マルエイガレリア」が建設されたが、同社が参画するかたちでの大型再開発構想もある(写真:若杉優貴)
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