普段はPCを触ることすら“まれ”だった工場のライン作業員が「AI活用のキーパーソン」として活躍する──。
ダイハツ工業(以下、ダイハツ)は「2025年度末までにDX人材を1000人育成する」という目標を、2025年10月に前倒しで達成した。同社は「人にやさしい、みんなのデジタル」を掲げ、これまでさまざまな現場発の改革を進めてきた。
「砂漠に大きな木を植えるのではなく、ひたすら種をまくことが大切だ」──こう話すのは、太古無限氏(コーポレート統括本部 DX推進室 デジタル変革グループ グループリーダー)だ。同社の一見地道で遠回りに見えるアプローチからは、DX人材育成のヒントが見えた。
ダイハツがDX推進に本格的に乗り出したのは、2023年までさかのぼる。背景には、自動車業界が直面する大きな変化があった。
自動車業界は、100年に一度と言われる変革期を迎えている。CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)やMaaS(サービスとしての移動)への対応が求められ、車そのものがデジタル技術の塊になりつつある。設計、製造、販売、アフターサービスまで、あらゆる工程でデジタル活用が不可欠だ。
「今後、車はどんどんデジタル化していきます。今より良い車を提供するためには、一部の社員だけでなく、全員が当たり前のようにデジタルを使える組織であるべきだと考えました。そのため、『人にやさしい、みんなのデジタル』というスローガンを、2023年1月に掲げました」
「人にやさしい、みんなのデジタル」を体現しているのが、普段はPCをほとんど触らない工場のライン作業員を、AIを用いた課題解決推進のキーパーソンに育成する取り組みだ。彼ら・彼女らを一時的に業務から外し、2カ月間でプログラミングの基礎から教育。現場で実際に困っているテーマを持ち寄り、解決策を工場に実装するところまで担う。
この取り組みを通じた工場発のAI活用事例は、100件以上生まれている。例えば「人の目の代わりになるAI」もその一つだ。自動車の生産工場では、不具合や傷の有無、部品の取り付け状態、刻印の整合性など、膨大な点検項目を人の目でチェックしている。自動車の品質を維持する上で欠かせない業務だが、人の集中力には限界がある。
そこで、人が入れない場所などにカメラを設置し、AIが昼夜を問わず品質をチェックする仕組みを導入した。人間では避けられない集中力の低下やばらつきを、AIが補完するのだという。
2020年から始まったAI研修は、現在も毎月数人が参加している。軌道に乗った背景について、太古氏は「2つの要因がある」と話す。1つ目は現場の意欲だ。「『デジタルを学びたい』という工場勤務メンバーが大勢います。意欲的なメンバーを、われわれのようなデジタルスキルを持つメンバーが支援する。このスタイルが、良い形で機能していると思っています」
2つ目が工場長の理解だ。「工場長がデジタル化に意欲的で『デジタルが好きな人、学びたい人がいる』と、私たちに紹介してくれています」
現場のトップである工場長自らが意欲ある人材を見つけて紹介してくれることで、やる気のある人が集まる仕組みができているそうだ。
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