社内で生成AI活用を推進しようにも「使わなくても仕事は回るので必要ない」「業務が忙しくて新しいツールを使う余裕がない」といった理由で、現場での普及が進まないケースも多い。
AI推進担当に任命されたものの、こうした状況に頭を悩ませるビジネスパーソンも少なくないだろう。
1804年に創業した老舗食品メーカーのMizkan(ミツカン、愛知県半田市)も同様の課題を抱えていた。生成AIを導入し、社員が自由に使える環境を整えたものの、現場での利用は伸び悩んでいた。
その状況を大きく変えたのが社内コミュニティの「生成AIフレンド会」だ。自由参加であるにもかかわらず現在では国内社員の1割に当たる211人が参加している。
停滞していた生成AI活用は、どのようにして動き出したのか。生成AIフレンド会の設計と運営のポイントを整理する。
本稿は、AIポータルメディア「AIsmiley」を運営するアイスマイリー(東京都渋谷区)が4月7〜8日に主催した「AI博覧会 Spring 2026」を取材したもの。
社内での生成AI活用推進を担うデジタル推進部では「全社員が生成AIを活用し、全社DXを圧倒的に加速する」という目標を設定した。一部の人ではなく、全社で使われる状態を目指したという。
当初、情報漏えいリスクによる抵抗感が、生成AI活用を妨げていると考えたデジタル推進部は、独自の生成AIアプリ「MIZ-GPT」を開発。セキュリティが担保された環境を作ることで、抵抗感の低減を狙った。
「しかし、自然にAI活用は広がりませんでした。環境は整っていても、使われない状態が続いていました」と、デジタル推進部でマネージャーを務める東雅子さんは話す。
そこで、若手社員や部内で影響力の大きいインフルエンサー的な社員を集めて生成AIのPoC(概念実証)を実施。しかし、生成AIの活用はPoCの場にとどまり、実業務への浸透にはつながらなかった。
一方で、業務で生成AIを使用していないものの、関心があるという層が一定数存在することも分かっていた。
「PoCの失敗から『使わせるDX』は浸透しないことを学びました。そこで、考え方を変え、使わせるのではなく生成AIに興味を持つ社員が自然と集まれる場を作ることにしました」(東さん)
こうした経緯で立ち上がったのが「生成AIフレンド会」だ。
「共に楽しむDX」を合言葉に、社内外での情報交換や、生成AIの知識・スキルの拡充を目的とした勉強会などを実施している。会期は半年に設定し、日本全国の拠点から参加できるよう、活動のベースはオンラインにした。
運営にあたっては次の3つを重視し、自発的に学ぶ雰囲気を醸成している。
また、継続が難しければいつでも退会できるルールにした。参加へのハードルが下がり「業務が忙しくなって参加できなくなる可能性があるから……」などの理由で及び腰になっていた層にもアプローチできた。
フレンド会の取り組みの一つが「アクティブキャンペーン」だ。これは、フレンドが生成AI活用における成功事例と失敗事例を社内SNSに投稿する取り組みだ。開始当初は投稿数が伸び悩んだ。しかし、デジタル推進部のメンバーが率先して発信することで、気兼ねなく投稿できる雰囲気が定着していった。
「直近のアクティブキャンペーンでは、17日間で50件超の投稿があり、コメントによる活発な議論も展開されました。組織を超えた情報共有の文化形成に寄与できたと感じています」(デジタル推進部 近藤陽菜さん)
さらに、アクティブキャンペーンで投稿やコメントをした人を、対面で生成AIの活用事例を共有する会に招待。さらなる情報交換の場を提供している。
個人の自発性を重視して始動したフレンド会だが、現在はメンバーが所属部署の生成AI活用リーダーとなって業務への活用を進めている。
「営業チームが生成AIで情報検索を効率化し、年間で370時間の余剰時間を生み出す」「新入社員が生成AIと商談を練習し、初商談を成功させる」といった事例が生まれているという。
こうした成果が見られる一方で、課題も残っている。中間のリーダー層への普及だ。
「日々の業務に追われるリーダー層は、新しい情報のキャッチアップが追いつかず、AI活用が後回しになっている現状があります」(東さん)
今後は、このようなリーダー層を巻き込んだ取り組みを強化する考えだ。
ツールだけでは動かない組織をどう変えるか――同社の取り組みは、そのヒントを示している。
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