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P&G新CEOが就任初日にやったこと 徹底した「顧客主義」を貫くマーケティング革命Adobe Summit 2026(2/3 ページ)

» 2026年05月18日 09時30分 公開
[冨永裕子ITmedia]

異分野の融合が「体験」を変える P&Gのイノベーション

ナラヤンCEO: P&Gは65ものブランドを抱えています。就任直後の会話の中に出てきた重視することの2つ目がイノベーションでした。

ジェジュリカーCEO: P&Gの200年弱の歴史を通して、イノベーションは私たちの原動力となっています。衣料用洗剤や使い捨てオムツなど、私たちは数々の革新的な製品を生み出してきました。これは多くのものを創造してきたことでもあります。テクノロジー業界ほどではありませんが、研究開発には20億ドル超を投資しています。これは先ほど話したような、消費者の問題を解決するための取り組みです。

 特に、異なる技術分野同士を組み合わせることに注力しています。衣料用洗剤として開発した「Tide evo」(タイル型衣料用洗剤)はタイル型繊維の技術に洗浄成分を掛け合わせた製品。害虫予防の「Zevo」は、害虫の生態に関する生物学、そして駆除するための化学の知識を組み合わせてできた製品です。

 消費者とのコミュニケーションが難しくなるにつれ、製品やパッケージを通した優れた体験の提供は、差別化の源泉を創り出すことにつながる。現代社会において、体験はこれまで以上に大きな変革をもたらすと私たちは信じています。

マーケティング組織は「ロックバンド」→「オーケストラ」に

ナラヤンCEO: 少し話題を変えて、デジタルについて聞きます。次世代の消費者へのアプローチに関して、デジタルが果たす役割をどう考えていますか。

ジェジュリカーCEO: 消費者はデジタルスペースで多くの時間を費やすようになりました。デジタルファーストの環境へと完全に移行しています。

 以前のマーケティングは、言ってみれば、ロックバンドのようなものでした。中心にあるのはクリエイティブで、限られた人たちの仕事でした。でも今は違います。オーケストラのような大規模で複雑な編成で、ジャズを演奏しなくてはならない。これを機能させるには、緩やかなフレームワークが必要だと思います。クリエイティブコンテンツに、消費者それぞれの製品体験を反映する必要がある。

 「ジャズ×オーケストラ」を実践するには、優れたツールが必要になります。

ナラヤンCEO: では、その実践でAIが果たす役割をどのように考えていますか。

ジェジュリカーCEO: 私がブランドマネジャーだった頃は、年に1〜2本の広告を制作しており、そのコンテンツを2〜3年の間は配信できました。

 ところが今はどうでしょう。ブランド単位でも、消費者単位でも、日に数百ものコンテンツ制作が必要です。これだけのスケールでコンテンツを効果的に配信しようとしても、人間だけでは到底できない。物理的に不可能です。

 AIは「あれば便利」ではなく「必要不可欠」なものだと思います。大企業ともなれば、適切な安全対策を講じながら、かつ大規模にコンテンツの制作から運用を実行しなくてはならない。

 ここでの安全対策とは、契約上問題のない画像を利用しているかに限った話ではありません。私たちには、非常に厳格な規律を守り、かつ消費者の感情に訴えかけるようなコンテンツを提供することが求められていると思います。

工場の無人運転に成功 「エージェント同士が連携」する世界を目指す

ナラヤンCEO: 本当にその通りですね。あなたがCEO就任時に重視することとして挙げていた3つ目、サプライチェーンについても、先進的な取り組みを実践していますね。この領域ではどんなことに注力していますか?

ジェジュリカーCEO: サプライチェーンについては、かつては多くの診断ツールや診断を支援するツールが利用されていました。その後、より予測的なアプローチが登場し、多くの企業はこの手法への移行を進めてきました。

 しかし、AIは「処方」、つまり何をすべきかの具体的な答えを提供できます。

 品質管理を例に考えてみましょう。制約があって、従来はサンプリング検査しかできなかったところに、センサーとカメラがあれば、全製品を対象にリアルタイムで検査が可能になる。データアクセスを確保すれば、人間によるレビューの必要もなくなります。まだPoC(概念実証)の段階ですが、品質は「計画するもの」ではなく、「自動的にプログラムされるもの」になりつつあります。

 もう一つ、工場のタッチレスオペレーションにも取り組んでいます。約1年半前、ベルリンのジレット工場でパイロットプロジェクトを実施しました。

 商品の生産を拡大しようとすると、工場で誰かが夜勤に従事する必要があります。でも好んで夜勤に従事する人はいない。そこで考えたのが、夜間のオペレーションの一部を無人にすることでした。

 4時間の無人運転から検証を始めました。さらに、工場で働く人を500人から3人に減らし、ラインに誰もいない状態での運転にも成功しました。

 今はこれを複数のオペレーションに展開していますが、目指しているのは「完全無人」ではありません。人間の介入を最小限にする「自律的運転」です。エージェント同士が会話し、調整するイメージの実現を目指しています。

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