この木製ラジオ開発において、鈴木氏は「効率化からは距離を置いている」と話す。TBWA HAKUHODOのフィロソフィーは「ディスラプション(創造的破壊)」だ。既存の前提をひっくり返すという反骨精神を、企業の核に据えている。AIによる業務効率化や人員削減ばかりが語られる議論への違和感が、開発の出発点にあった。
「AIで効率化は進むが、その裏で、機械的で非人間的な、寂しい社会が生まれつつある。そんな問題意識があったので、AIの使い方を真逆にしていこうと考えた」(鈴木氏)
ニチイ学館の松本氏も同じ思いだ。「効率化ではなく、AIで人と人の隙間を埋めていく。今まで引き出せなかったものを引き出し、プラスアルファを作り出す。そうした使い方が見えたのがおもしろかった」と話す。
両社のアプローチは、介護現場の構造的な課題ともかみ合う。ニチイ学館が介護スタッフ向けに行ったアンケートでは、業務負担の上位に「利用者の見守りやコミュニケーションの難しさ」が挙がった。スタッフは「もっと施設利用者と話したい」と望むが、世代が離れていて会話のきっかけがつかめない。RADIO TIME MACHINEは、その世代間の距離を縮める役割を果たしている。
TBWA HAKUHODOは、2026年春から北里大学医療衛生学部の福田倫也教授らと共同研究を始める。調べるのは、RADIO TIME MACHINEが認知症の症状改善にもたらす効果だ。
認知症患者の、落ち着きがない、怒りっぽい、意欲が下がるといった症状は、家族を介護疲れに追い込む大きな要因とされている。RADIO TIME MACHINEがこの症状に効くなら、認知症ケアの新たな選択肢になりうるだろう。
ただ、仮に医学的な効果が確認されたとしても、事業として成り立つかは別問題だ。RADIO TIME MACHINEは既存の介護保険上の福祉用具貸与・販売の対象種目には該当しにくく、現時点では保険外での運用が前提になる。
RADIO TIME MACHINEは、今後家電メーカーなどと組んで数百〜数千台の規模で製造され、介護施設への販売・貸し出しが行われる予定だ。しかし、「施設利用者との会話を増やす」ためのデバイスに、自社負担で資金を投じる企業がどれほどあるのかは未知数である。
TBWA HAKUHODOとニチイ学館の取り組みは、AIの使い方の幅を広げる試みの一つである。しかし、実証実験で見えた効果を事業として広げていくには、導入企業の資金的ハードルをいかに下げられるかがカギとなりそうだ。
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