「Apple税」からの解放か、それとも国際決済ブランドによる“締め出し”か──。今、日本のゲーム・エンタメ産業の「決済」の領域で、大きな地殻変動が起きている。
2025年12月、通称「スマホ新法」(スマホソフトウェア競争促進法)が日本で全面施行され、アプリ事業者がAppleや米Googleのアプリ内課金を介さず、独自の外部決済へユーザーを直接誘導することが解禁された。これにより、これまで最大30%かかっていたプラットフォーム手数料を数%台まで圧縮できるケースも生まれている。
一方で、日本の大手エンタメ・コンテンツプラットフォームでは米Visaや米Mastercardによる突然の決済停止が相次ぎ、基準が不透明なまま、事業者が代替決済手段の確保を迫られる「クレカ規制」問題が深刻化している状況だ。
スマホ新法の施行を受け、世界100万社以上のネット決済を裏側で支え、米OpenAIのChatGPTの決済インフラとしても知られる決済代行企業、米Stripe(ストライプ)はどう動くのか。
自身も日本の漫画やアニメを愛し、エンジニアとしての情熱を抱いて日本法人の立ち上げを率いてきたストライプジャパンのダニエル・ヘフェルナン代表取締役に、エンタメ経済圏の未来図を聞いた。
ダニエル・ヘフェルナン ストライプジャパン代表取締役。Stripeの日本におけるプロダクト・開発分野を担う。2014 年にStripe入社、日本法人を創設。以来、日本向け製品の開発や組織の拡大に尽力し、日本市場向けのプロダクト戦略を統括。Stripe参画以前は、クックパッドでエンジニアとして従事。東京大学にて情報理工学修士号を取得。Fintech協会 理事も務める(以下、筆者撮影)――近年、日本の同人誌や成人向けコンテンツなどを扱う事業者において、VisaやMastercardが利用できないといった決済ブランドによる規制問題が起きています。Stripeとしてはこの現状をどう捉えていますか。
われわれとしては、法的に許可されているものであれば、基本的に決済を許可する方針であり、独自のモラルや判断基準を介入させることはしていません。しかし決済の仕組み上、われわれの上流にはVisaやMastercardといった国際ブランドが存在しており、彼らには独自のブランドルールがあります。ブランド側がどのような背景や基準でそのルールを定めているかはさまざまですが、われわれは決済インフラとしてそのルールに従わざるを得ないのが現状です。
ですので、成人向けコンテンツに限らず、VisaやMastercardが独自のルールで「使えない」と判断した場合には、われわれもその方針に従って動くしかありません。ただ、現在では決済手段の多様化が進んでいます。VisaやMastercardが利用できなくても、JCBなど他のブランドや別の決済手段といった選択肢も存在します。われわれとしては、ブランド側のルールを正しく理解し順守しつつも、ユーザーのニーズに耳を傾け、提供可能な選択肢の中でベストを尽くすしかないと考えています。
――ゲームやエンタメ領域では「スマホ新法」の影響を受け、これまでAppleやGoogleといったプラットフォーマーによるアプリ内課金に頼っていた企業が、自前決済へシフトしようとしています。ここに貴社が入り込む余地はあるのでしょうか。
これは私たちも大きなチャンスだと考えています。アプリ内課金の手数料は高いと言われますが、実はただ決済をするだけでなく、データの提供やカスタマーサポートの一次受け、不正利用対策、海外での複雑な消費税の納税処理など、多くの機能がパッケージとして提供されているため、それに見合う価値を得ている事業者も多いのです。
事業者がアプリ内課金を離れて自分たちで直接決済をするとなると、そうした周辺業務を全て自社で担わなければならず、大変な負担になります。
そこで、われわれは「Stripe Managed Payments」という商品を発表しました。これはStripe自身が売り主となるサービスです。アプリ内課金と同様にわれわれが販売責任を持ち、サポートの一次受付や不正対策、海外の納税処理などを責任を持って代行します。これを利用していただくことで、小規模なスタートアップであっても、自社の負担を大きく減らしつつ、複数の選択肢から最適な自前決済を構築できるようになります。
――クレカ規制やスマホ新法という大きな変化の中で、あえてStripeが日本のエンタメ市場に注力する理由は何でしょうか。
われわれのビジネスの大きな柱として「グローバル・エクスパンション」(海外展開)を非常に重視しています。現状、Stripeを通じて世界に展開しているソフトウェア企業の多くは米国、中国、オーストラリア、欧州発であり、日本発のグローバルな大手の成功例はまだ多くありません。
しかし、インターネットを通じて直接世界中の消費者にデジタルコンテンツやIP(知的財産)を届けられるエンタメやゲームの領域は、海外でも非常に成功しており、とても期待しています。
日本の国内大手顧客の中にもゲーム会社やメディア企業が多く、現在最も成長している分野として、日本チームでも特に投資を強めています。
――ヘフェルナン代表は、そもそも日本の漫画やアニメが好きで来日されたそうですね。日本での今後の展望をどう描いていますか?
年齢がバレてしまう話ですが、私が最初にハマったアニメは『ラブひな』でした。作中で主人公が東京大学を目指すストーリーにも影響を受け、アイルランドから来日して東京大学大学院に進学したほどです(笑)。
そこで情報理工学の修士号を取得した後、クックパッドでエンジニアとして働き、2014年にStripeに入社して日本法人の立ち上げを担うことになりました。海外でも日本のアニメやエンタメは非常に強い力を持っています。
日本は長年「人手不足」の課題を抱えており、他のアジア圏も急ピッチでその対策を迫られています。これまでは高齢者の方々の労働力で経済を支えてきましたが、そこに新たな解決策としてAIや決済の自動化が入ってくると考えています。
一見、逆風が吹いているように見える日本のエンタメ市場ですが、われわれは技術者の目線から、その底力と今後のグローバル展開の可能性にとても期待しています。インフラの側面から、日本のコンテンツが世界で勝つためのサポートを続けていきたいですね。
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