この時にトヨタは、世論を味方に付ける必要性を感じたのだろう。それまでのトヨタは三河商人のルーツを思わせる、真面目なエンジニアたちが知恵を絞り、生活に役立つクルマ、生活を豊かにするクルマを作ることだけを目指していたように見えた。
そこから「売り手よし、買い手よし、世間よし」という三方よしの近江商人の考えも取り入れたようだ。グローバルな企業となって、日本の商習慣の良いところ全てを取り入れるのは理にかなっている。
買ってくれるユーザーだけを相手にするのではなく、世論を味方に付ける必要性を知ったトヨタは、情報公開に積極的になったのだ。
昨今の自動車メーカーの開発環境では、エンジンをはじめとするパワートレインやシャーシの開発工程でHIL(実機とシミュレーションを組み合わせた開発手法)を活用した開発が大きな比重を占め、開発期間やコストの圧縮を図っている。だが、トヨタは実機にこだわり、早い段階から試作エンジンを試験装置で検証するといわれている。
プラットフォームも台車の状態から走行実験を始め、試作車も早い段階から作り始める。開発の多くをバーチャル環境で進めるのが一般的になった現在も、クレイモデルや実機による検証を怠らないのだ。
クレイモデル製作中の様子。モニター画面では分からない、リアルなボディパネルが放つイメージをつかむためにクレイモデルは重要だ。クレイ(粘土)を削って面を出し、専用のフィルムを貼って塗装面に近付ける(写真:トヨタ)そうした開発手法がトヨタテクニカルセンター下山でも実際に行われていることが、今回の取材会でも伝わってきた。そのあたりは巨大メーカーと中堅メーカー、新興メーカーでは事情が異なると思うが、やはりリアルな現場での開発が製品品質を確実に高めるのだろう。
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