社員のAI利用率は100%、コードの約7割はAIが生成する。それでも、生産性はまだ伸ばしきれていない……。この壁を前にメルカリが選んだのは、新たなツールの追加ではなく、組織そのものを組み替えることだった。
2026年6月、その第一手として、CTO(最高技術責任者)の木村俊也氏が、CHRO(最高人事責任者)とCAIO(最高AI責任者)を兼任する体制がスタートした。
メルカリは2025年5月から「AI-Native Companyの実現」を掲げている。スタートは、グループCEOの山田進太郎氏がSlackで以下のメッセージを投稿したことだという。
7月には約100人規模の「AI Task Force」が立ち上がり、全社施策として本格化した。全社の業務領域を棚卸しし、一つ一つにAIを実装していく。半年ほどでChatGPTやClaude、文書基盤に据えたNotionとそのAI機能が全社員に行き渡り、AIツールの利用率は100%に達した。エンジニア1人当たりの開発量は前年比1.9倍に伸びている。
これらの数字を見ると、同社のAI活用はひと区切りついたように見える。だが、木村氏はそうは考えていない。
「みんな使ってるんですよ、もう」
ツールが浸透したこと自体には、もう驚きはない。問題は、AIを前提に働き方の中身まで変わったかどうかだ。木村氏はそこに手応えを感じきれずにいた。
「ここで止まってしまっては、抜本的なAI前提の働き方を実現できているとは言えないのではないか」──そんな疑問が残ったという。
ツールは行き渡ったが、働き方そのものは本当に変わったのか。ここから、その問い直しが始まる。
木村氏がまず手をつけたのは、開発の現場だった。開発はAI活用が進みやすく、AI前提の働き方を試しやすいからだ。エンジニアはAIコーディングを日常的に使っており、いまや書かれるコードの約7割はAIが生成する。
生産性は確かに上がった。だが、まだ上げられる。「コーディングだけが速くなっても、全体のスループット(一定期間における処理能力)は上がらない」と木村氏は見ていた。
理由は、開発という仕事の“構造”にある。プログラミングは、新しい機能を世に出すまでの工程の、ほんの一部にすぎない。コードを書く前には、企画があり、どの施策が顧客価値につながるかを探るディスカバリーがあり、仕様の設計がある。コードを書いた後にも、品質保証(QA)、コードレビュー、デザイン、コンプライアンスやセキュリティのチェックが続く。
コーディングだけを速くしても、その前後の工程が速くならなければ、どこかが必ず詰まってしまう。「周りの一つ一つが速くならなければ、どこかがボトルネックになってしまう」と木村氏は言う。他にもデザインの領域など、引き続き人の専門性が重視され、時間のかかる工程も残る。
全員がAIを活用し、個々の作業のスピードを上げても、ボトルネックが解決しなくては意味がない。生産性が頭打ちになった原因は、ツールの不足ではなく、仕事の流れそのものの設計にあった。
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