AI Podsの導入により、職務の定義(ジョブディスクリプション)そのものが書き換わるケースも多くあった。
人事が現場を見ていなければ、変化した働き方はブラックボックスになり、誰が何をどれだけ生み出したのかを評価できない。新しい組織をどう設計すべきかも判断できない。
そもそも各人の役割を変えなければ、AIの潜在力は引き出せない。だからこそ、現場を見るCTOと、組織の将来像を描くCHROを1人に束ねる判断をした。
「現場で起こってることを理解しているCTOと、組織の将来像を決めるCHROが1人でやる」──木村氏は、この統合を自然な流れだととらえている。
もう1つ、木村氏が重視するのは、何を先に変えるかだ。AI-Native化で最初に動くべきは経営だった。「経営、HRの順番で変わると、全社の抜本的な組織設計を変えられる」。経営の次に変わるべきはHRであり、そこにAIを理解した人間が直接入っていく。順番の問題だ、というわけだ。
変化は数字にも表れている。この業界では、1つのチームを構成する人数は8人ほどが標準だった。それが5人で回るなら、意思決定は速くなり、組織はフラットになる。人員のかたちが変われば、全体の組織設計も変わる。
もちろんHRが不要になるわけではない。「HRは根本的に必要なんです」と木村氏が言い切る通り、むしろ、最も変わらなければならない部署になる。
開発組織で見えた型を、次は非エンジニアの組織へ移せるか。木村氏はPRやHR、ファイナンスといった領域を候補に挙げる。その入り口として、約1000人の非エンジニアが、自分の業務に合わせてAIエージェントの「スキル」(再利用できる業務手順)を作る「AI Agent Day」を進めている。AIを前提とした働き方を、ものづくり以外へ広げる実験である。
ただし、こちらのほうが難しい。ものづくりには「こう作る」という型があり、多くのエンジニアやプロダクトマネジャーに当てはめられるため、一般化が効く。対してコーポレートは、領域ごとに働き方が違いすぎる。法務とPRでは、仕事の進め方がまるで異なり、共通の型が引きにくい。「まさに今検討中」と木村氏は話す。
評価という課題も残る。
第1に、AIを前提に働くと、1人が背負う責任の幅が広がり、成果の差も大きくなる。今までの基準のままでは、全員が高い評価を得る形になる。まず期待値をそろえ直し、等級(グレード)の定義に、新しい働き方の前提情報を書き出すことが重要だ。
第2に、評価の仕方の問題だ。AIを評価そのものにどこまで使うか。木村氏は、AIに任せるのは情報収集などの補助までで「最終的な評価は絶対、人間が下さないといけない」と線を引く。制度設計は、始まったばかりだ。
利用率100%は、出発点にすぎない。企業によっては、AIを全員が使う状態に近づきつつある。
その先で組織をどう組み替えていけるかで、次の差が生まれる。変革を進めるメルカリ自身、その答えをまだ手にしてはいない。
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