XRと聞くと、多くの企業が真っ先に懸念するのが制作コストだ。だが和泉社長は「通常の映像制作とそれほど変わりません」と話す。「コストがかかるのはCG制作です。CGを大量に使うから多額の費用がかかってしまう」と指摘する。
ExREALが手掛けるコンテンツは、約9割が実写ベースだという。CGを多用すれば制作費は膨れ上がる一方、実写を中心に構成すれば、撮影にかかる初期費用は通常の映像制作と大差ないと語る。
さらに運営面でのROI(投資対効果)にも優位性があるという。XRコンテンツは、一度制作すれば上映型ビジネスとして展開できる。その結果、劇場型エンタメで課題となる人件費の削減が可能になるという。
SAMURAI BLUEプロジェクトのもう一つの特徴が、VIP戦略だ。和泉社長は「これからのVIP体験はグッズを提供することよりも、体験をもってどう差別化していくか。これが一番重要だと思っています」と話す。その言葉通り、提供するのは「体験そのもの」の価値だ。
具体的には、優先入場やVIPエリアの利用といった「特別な動線」を提供することで、体験価値を最大化している。航空会社のファーストクラスなどに近い発想だ。今回のSAMURAI BLUE 3D EXPERIENCEでは、ドリンク付きのVIP席は平日で8000円、土日祝では1万円で販売している。
物販中心ではなく、体験価値を高めることで高単価化を実現するVIP戦略は、ファンのロイヤルティやLTV(顧客生涯価値)の向上という観点からも有効だ。
ExREALは創業から短期間で大型案件を受注している。だが、意外なことに社員はいないという。和泉社長はAIを中心に据えた組織運営をしている。「AI時代なので、まずAIを使う。その上で優秀なフリーランスや外部パートナーと組む」という経営スタイルだ。
企画書作成や情報整理、メール対応など、AIをエージェント化することで業務効率化を図り、一人でも高速な意思決定を可能にしている。和泉社長はAIを「最高の壁打ちパートナー」と表現する。実際、大手企業との大型案件も、AIが作成した企画書が突破口となっているという。
「もちろん私が最終確認はしていますけどね」(和泉社長)
また、和泉社長が日本と海外の両方を経験したことで見えてきた、日本企業特有の課題もある。技術そのものではなく、日本企業に根強く残る「失敗を避ける文化」だ。日本のIPホルダー企業は権利保護への意識が強く、新しい挑戦に慎重になりがちだという。一方、米国では失敗を学習コストとして受け入れ、まず試してみる文化が根付いている。
「失敗したらどうしよう。炎上したらどうしよう。そればかりでは何事も前に進みません。挑戦することは未知の世界に足を踏み入れることなので、失敗から学ぶしかないんですよ」
この風潮は、XR業界に限らない。DX推進や新規事業開発の現場でも、前例のない挑戦ほど社内承認の壁が高くなり、変革のスピードを鈍らせる要因となっている。だからこそ今求められるのは、新しい技術を導入することではなく、新しい挑戦を許容する組織文化なのかもしれない。
一方で日本の良さもある。欧米の社会で「アニメを見て癒やされた」「自分の居場所を見つけられた」「日本のゲームはセラピーだ」といった消費者の声を耳にしたという。日本のコンテンツを「自分を癒やしてくれるものであり、現実世界から逃避するための手段になっている」と分析する。
日本のコンテンツが持つ、こうした価値を世界へ届ける上で、XRは大きな可能性を秘めていると和泉社長は自信を持つ。有形資産から無形資産へと価値の重心が移る中、言語を超えた「体験」を届けられるXRは、日本のIPを世界へ展開する新たな手段になり得る。
和泉社長が提唱するXRは、単なる映像技術ではない。ファンエンゲージメントの向上、SNSによる拡散、そして高収益なビジネスモデルを同時に実現する新たなマーケティングプラットフォームとしての可能性を秘めている。
「点」のイベントを「線」の体験へ変え、ファンとの関係性そのものを再設計するXR。その可能性は、日本のIPを世界へ展開する新たな成長戦略となり得るのか。今後の展開に注目したい。
「K-POPの輸入」から「日本発の体験」を世界へ HYBE JAPANが描く「エンタメの次なる形」
TXTが眼前で踊る! 世界的先駆者に聞く「映画館VRコンサート」の破壊力
BTS擁するHYBE発 1億DL超“推し活”アプリ「Weverse」がエンタメの常識を覆すワケ
BTS、SEVENTEEN参加の1.5億DL超“推し活”アプリ「Weverse」 LTV向上の秘策は?
SEVENTEENの「THE CITY」 HYBE JAPANトップに聞く新時代のプロモーション
BTS、SEVENTEENを擁するHYBE ゲーム事業に参入するワケと勝算Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング