新宿の街並みに際立つ、印象的な「タイガーイエロー」――。
アシックスが展開する「オニツカタイガー」は、世界最大の旗艦店(フラグシップ)を東京・新宿に構え、世界への情報発信基地にする。日本発ラグジュアリーブランドとして新たな勝負に打って出た。
店内に一歩足を踏み入れると、大理石とフローリングが落ち着いた空間を醸し出し、上階にはクラフト家具やレーシングシミュレーターを備えた体験型フロアが広がる。新宿の旗艦店は、従来の国内最大店舗(大阪・難波店)の3倍近くとなる1837平米という圧倒的な規模の店舗だ。スニーカーショップの枠を超え、ブランドの世界観を示す空間となっている。
「目指しているのは店舗を増やすことではありません。ここでしか味わえない時間や体験が、ブランドへの強い愛着になるのです」。アシックスからの分社化を発表したOT GROUPの庄田良二CEOは、熱を込めてそう語る。
2025年12月期の売上高1365億円(前期比43%増)という躍進を背景に、シューズに加えてアパレル、レザーグッズ、フレグランスまで網羅する空間は、同社が提示する「日本発のラグジュアリーライフスタイルブランド」の結晶だ。
パリのシャンゼリゼ通りやロンドンの目抜き通りで行列を作り、世界中のインバウンドを魅了するオニツカタイガー。プラダ(PRADA)、ロエベ(LOEWE)、モンクレール(MONCLER)といった欧州の名門メガブランドがひしめく世界のラグジュアリー市場において、日本の職人技と洗練された感性を武器に、いかにして独自のポジションを打ち立てるのか。
分社化という勝負に出たOT GROUPが「新宿のど真ん中」から仕掛けた世界攻勢の展望に迫る。
庄田良二(しょうだ・りょうじ)外資系ファッションブランドを経て、2011年にアシックス入社。オニツカタイガーの事業責任者として、ブランディング、出店計画、マーケティングなどの抜本的な改革を行う。新商品・新ラインや新規店舗立ち上げの際には、自らディレクションを担当。2026年2月25日にOT GROUP設立に伴い社長に就任。アシックスの副社長も兼務。兵庫県出身「日本発のラグジュアリーライフスタイルブランドとして、日本の美意識や感性を世界へ発信し、新しい価値を創造していく。その考え方を、空間、商品、サービス、そして体験まで含めて形にしたのが、この新宿店です」
庄田CEOは、旗艦店オープンの狙いをそう語り、世界に向けたブランディングへの意気込みを明かす。
店舗設計を手掛けたのは、建築デザインで高い評価を得るイタリア・ミラノの建築事務所「STUDIO DINI CATALDI」(スタジオ・ディニ・カタルディ)だ。独特の美意識が息づく空間は、JR新宿駅に直結する絶好のロケーションに位置している。
店舗面積は1837平米と、これまで国内最大だった大阪・難波店の3倍近くに及ぶ圧倒的規模を誇る。フロア構成も多彩だ。1階は黒のフローリングと大理石で躍動感を表現したアパレル・アクセサリー・フレグランスを含むライフスタイル全般を扱う。
2階はイエローのアクセントに加え、素材・縫製・加工の工程を全て国内で手掛けている最高峰ライン「NIPPON MADE」シリーズが並ぶ。3階はコレクションを堪能できる空間とし、M2階には新たな試みとして高速レーシングシミュレーターなどを備えた有料アミューズメントエリアを設けた。
庄田CEOは、この巨大な空間構成の狙いについて、次のように語る。
「世界最大の店舗として、シューズ、アパレル、バッグ、革靴、フレグランスまで、オニツカタイガーの全カテゴリーを一つの空間で展示しています。各フロアが異なる役割を持ちながら、ブランド全体の世界観を体感できる設計としました。ブランドとの出会いは、商品を購入する瞬間だけではありません。空間を歩き、体験し、会話を交わす時間そのものが共感や愛着につながっていく。そうした新しいブランド体験の提案こそが、この店舗の真の役割です」
シューズからアパレル、レザーグッズまで、オニツカが手掛けるラインアップのほぼ全てがそろう新宿店。ワンストップでその世界観を堪能できる仕掛けが、来館者に新しいブランド体験を強く印象付けている。
オニツカはその斬新なデザインから、特にインバウンドに人気を博す。世界に約190店舗を構え、2025年7月にはパリのシャンゼリゼ通りに旗艦店をオープンするなど、各都市の目抜き通りに出店している。
どの店も行列ができるほど注目されている状況だ。商品は、日本よりも先にファッションの発信地であるパリやロンドンから人気を博すこともあるという。今回の出店も、インバウンドが多く訪れる新宿を選んだことで、世界中のオニツカファンに向けアピールする構えだ。
最も大きな割合を占めているシューズは、その独特のデザイン性が客に受けている。シューズ「MEXICO 66」を始め、最近ではデニムジャケット、ジーンズ、サングラスも人気になっており、独自のラグジュアリーブランドが世界的にも定着し始めているようだ。
オニツカタイガーの高価格商品がインバウンドを中心に売れており、親会社のアシックスの業績アップにも大きく貢献している。アシックスはオニツカタイガー事業の分社化を推し進め、2026年2月には新会社OT GROUPを設立した。今後はオニツカならではの強みを生かし、より機動的な成長を目指す方針だ。
庄田CEOは「新宿は、日本を代表する商業エリアであると同時に、世界中から多くの人々が訪れる街です。銀座、渋谷に続き、この街にランドマークとなる店舗を構えることで、より多くのお客さまにオニツカタイガーの価値観や美意識に触れていただき、日本発のブランドとしての存在感をさらに高めていきたいと考えています」と語る。
新宿店オープンを機に世界ブランドへの飛躍を目指している。
「私たちが目指しているのは、店舗を増やすことではありません。一つ一つの店舗がブランドの思想や価値観を伝え、お客さまの記憶に残る体験を提供することです。この新宿店がOT GROUPの新たな挑戦を象徴する場所となり、世界中のお客さまにオニツカタイガーの魅力をより深く感じていただける拠点へと育っていくことを期待しています」
親会社のアシックスが競技用スポーツ分野で着実に存在感を高める一方、オニツカはファッション・ラグジュアリー領域で独自の路線を突き進む。新宿のど真ん中にこの大型旗艦店を構えたことは、同事業が本気で世界ブランド化へ舵(かじ)を切った証左だ。
オニツカタイガーが挑む市場には、イタリアを代表するプラダ、スペイン王室御用達のロエベ、フランス生まれのモンクレールなど世界のラグジュアリーブランドがひしめく。そうした中で、日本のクラフトマンシップと洗練されたデザインを武器に「日本発のラグジュアリーライフスタイルブランド」という独自の価値を、どこまで浸透させられるか。差別化が、今後の成長を左右するカギになりそうだ。
インバウンドを核として、日本市場だけでなくグローバルでさらなる売り上げ拡大ができるかどうか、目が離せない。
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