航空業界は今、為替や原油高、イラン情勢における地政学リスクなど、外部環境の荒波に翻弄されている。
かつてないボラティリティ(価格変動率)に直面する中、従来の「空を飛ばなければ、稼げない」という航空会社のビジネスモデル自体が、経営の最大リスクとなっている状況だ。こうした中、日系大手のANAとJALの両社は、自社のマイルを基盤とした「金融・プラットフォーム企業」への変革に活路を見いだしている。
「移動の提供」だけでは維持できないインフラコストを、いかにしてマイルプログラムをベースとした決済サービスを使いながら回収するのか。両社の戦略の違いから、マイル経済圏の展望を読み解く。
従来、マイルは顧客にとって、特典航空券に交換して使う、いわば「タダで飛行機に乗るための特典」が提供価値だった。
当然、他社ポイントや電子マネー、物品など多岐にわたる交換方法を用意はしている。だが今も昔も「特典航空券への交換」こそが、最も還元率がいいのは間違いない。
一方、航空会社側にとって、未使用のマイルはバランスシート(貸借対照表)上で「引当金」という名の負債(将来の持ち出し)として計上される重荷でもあった。
だが今、マイルの定義を根本から変えようとしている。マイルを、光熱費の支払いや日用品の決済に充当させ、自社経済圏内における「循環通貨」へと進化させることで、負債ではなく将来的な収益に変える「戦略的資本」に転換する狙いだ。
この「マイル経済圏」が強固になればなるほど、航空会社は「燃料費高騰による赤字転落」といった単純な収益構造から解放される。地上の経済圏で安定したキャッシュフローを稼ぎ出すことは、不確実性の高い航空業界における経営の「正解」の一つと言えるだろう。
だが、その手法において、ANAとJALは対照的なアプローチを見せた。
ANAが4月に発表したスーパーフライヤーズカード(SFC)の改定は、そのドラスティックな姿勢を象徴している。
従来は、年間の搭乗ポイントなどSFCの入会基準に一度到達した会員に対し、約1万円の年会費を支払い続けることで、ANAラウンジの無制限利用や優先チェックイン、優先搭乗といった特典を付与していた。それらの特典は、海外の提携航空会社でも提供していた。
それを、2028年4月から導入する新ルールで改定したのだ。「ANAカードまたはANA Payでの年間決済額300万円以上」に到達しない顧客に対しては、ラウンジの利用権を失効させる。この厳しいルール改定は、実は「ラウンジの混雑緩和策」という以上の意味を持つ。「日常生活の決済をANAに委ねる顧客かどうか」を問う、実質的な“踏み絵”となっているのではないだろうか。
ANAにとって、クレジットカードやスマホの決済手数料の収益化や、カード利用客の膨大な生活データの把握は、航空事業のボラティリティを相殺する強力な安定剤となる。原油高や円安、紛争といった外部環境に翻弄されるリスクを減らすための施策なのだ。
航空会社から「決済プラットフォーマー」へ――。ANAのSFC改定は、航空会社という「サービス業」の枠を超え「決済プラットフォーマー」への移行を宣言したものと解釈できる。顧客に対し、決済実績という「金融的な貢献」を求めるビジネスモデルに変えたのだ。
ANAの戦略の本質は、圧倒的なサービスラインアップによる「生活の包囲」にある。その「生活包囲網」の具体例は多岐にわたる。
オンラインショッピングの「ANA Mall」、移動距離をポイント化する「ANA Pocket」、さらには電気・ガスの「ANAでんき・ANAガス」に加え「ANAの保険」「ANAの住まい・ANAの住宅ローン」「ANAモバイル」まで、あらゆる接点にマイルを介在させている。これを活用する「陸マイラー」という言葉も定着して久しい。
これらの利用実績は、マイルが貯(た)まるだけでなく、年間の搭乗実績が通常より少なくても「ダイヤモンド」「プラチナ」といった上級会員の資格を与える「ライフソリューションサービス」(LS)に直結する。
これまでの顧客接点は不定期な「点」(搭乗)だったが、これからは継続的な「面」(生活インフラ)へと変えていく。ANAの「生活包囲」戦略は、JALや他ジャンル経済圏への流出を阻止する「防衛網」の役割も果たす。
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