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「ANA系Peach」と「JAL系ジェットスター」 二大LCCが選んだ「生存戦略」の分かれ道(1/2 ページ)

» 2026年04月25日 08時00分 公開
[シカマアキITmedia]

 ゴールデンウィークを目前に控え、旅行者にはため息が広がっている。円安と燃油高の影響で、航空券代は高騰。そこへ追い打ちをかけるニュースが飛び込んできた。

 読売新聞は4月22日、最大手の全日本空輸(ANA)が2027年度から国内線に「燃油サーチャージ」を導入する検討に入ったことを報じた。スカイマークや日本航空(JAL)も先行して導入方針を打ち出していただけに、主要各社が足並みをそろえた形だ。

 大手ですら収支悪化に苦しむ高コスト時代が到来する中で「安さ」を武器に成長してきたLCC(格安航空会社)は、ビジネスモデルの限界に直面している。3月にはANAグループで、中距離LCCとして期待された「AirJapan」が、就航からわずか2年で運航休止に追い込まれた。

 一方、同じくANA系のLCCである「Peach」(ピーチ・アビエーション)は4月、創業15周年のリブランディングを実施した。JAL系「ジェットスター・ジャパン」も、株主体制の刷新を経て、新たなブランドへの脱皮を控えている。

 「安さの先」に何を見せるのか。対照的な道を歩み始めた二大LCCの生存戦略から、航空業界の展望を読み解く。

photo 「ANA系Peach」と「JAL系ジェットスター」。二大LCCが選んだ「生存戦略」の分かれ道とは?(以下全て筆者撮影)

国内線燃油サーチャージの導入は「低価格モデルの終焉」か!?

 各社の国内線燃油サーチャージの導入検討は、航空業界にとって「低価格モデルの終焉」を告げる出来事と言えるかもしれない。これまで国内線は、航行距離が短く燃料費の割合が小さいことなどもあり、サーチャージの対象外とされてきた。だが中東情勢の緊迫化と円安の影響によって、継続が難しくなった形だ。

 航空各社の経営は「もはや効率化ではコスト増を吸収できない」限界点にある。 以前レポートした通り、国土交通省の「国内航空を巡る現状」によると、2025年3月期、公的支援を除いた国内主要6社の国内線事業は実質的な営業赤字に陥っていた。

 「安さ」を売りにしてきたLCCにとって、このコスト増は存立を揺るがす問題だ。AirJapanが運航休止を余儀なくされた事実は、中距離・低価格戦略で生き残ることが、どれだけ困難であるかを浮き彫りにした。LCCは今、「安さ以外」の選ばれる理由を再構築しなければならない瀬戸際に立たされている。

photo01 国内線事業の収支の状況。コロナ前後での比較(国土交通省「国内航空を巡る現状」より)

「安さ」を捨てて何を取る?  Peachのブランド再定義

 この逆風に対し、Peachが打ち出したのは「価格競争からの脱却」だ。リブランディングのデザインは、大阪・関西万博「日本館」を総合プロデュースしたデザイナーの佐藤オオキさんの事務所「nendo」が担当した。

 「親しみやすさ」をコンセプトに、飛行機の外観や機内、空港、Webサイトなどあらゆる場所でリブランドしたデザインを打ち出す。従来のデザインより角に丸みを出し、より落ち着いたカラートーンで安心感と信頼感をアピール。文字の間隔をあえて空けることによって、LCCが持つ窮屈感からの脱却を目指すという。

 2012年3月の就航当初、Peachが掲げたコンセプトは「空飛ぶ電車、バス」。サービスを有料化することによってコストを抑え、高速バス並みの運賃で飛行機移動できることを売りに成長してきた。特に2012年は「LCC元年」とも言われ、Peachは日本における初の本格的なLCCとして話題を集めた。従来のPeachロゴやフューシャピンクと呼ばれる明るく鮮やかな色合いが長く親しまれてきた。

photo02 Peachは創業以来のロゴデザインを一新。以前より丸みを帯びて「親しみやすさ」をアピールする

 リブランディングについての報道向け発表会で、Peachの大橋一成・代表取締役CEOは「創業以来『誰もが手軽に空の旅を楽しめる』ことを掲げ、特に若者や女性を中心とした多くのお客さまに支持され、累計7500万人もの搭乗実績を達成しました」と述べた。就航当時の3機から、現在は30機以上の飛行機を所有し、国内線25路線・国際線15路線を運航。タイ・バンコクやシンガポールまで就航ネットワークを広げる。

photo03 リブランドの発表で記者会見するPeachの大橋一成CEO(右)と遠藤哲・常務執行役員

 Peachの遠藤哲・常務執行役員によると、利用客の半数以上が20〜30代の若年層だといい「これまで飛行機に乗る機会が少なかった若い世代の移動を支えるインフラとして貢献できました」と語った。

 今回のリブランドでは、中高年や、これまで心理的に距離を感じていた層にも親しみやすく認識されるよう配慮し、より幅広い客層へのアプローチを狙う。

photo01 ANAグループのLCC「Peach」が4月1日からのリブランドを発表(3月31日、大阪市内。左からPeachの大橋一成CEO、デザイナーの佐藤オオキさん)

「Peachだから乗りたい」を訴求できるか

 Peachの狙いは、ターゲットをこれまでの「価格重視層」から「体験・ライフスタイル重視層」へ広げることにもありそうだ。高コスト構造下でも「Peachだから乗りたい」という付加価値を、顧客に認識させるための戦略といえる。ビジネス・フルサービスのANAと、レジャー・感性消費のPeachという、グループ内でのすみ分けが、より鮮明になった。

photo03 Peachの拠点は大阪・関西空港。ターミナルから徒歩で搭乗

 以前、韓国で「Peachがかわいいから乗りたい」という若者の声を聞いたことがある。Peachの色合いは空港でも映え、機内販売でも女性受けしやすいグッズが多い。桃のデザートやドリンクなど常にこだわりのフードやドリンクを販売している。

 筆者は大阪拠点で、Peachには就航以来、公私とも数えきれないほど乗ってきた。大手航空会社と比べると「事前座席指定が有料」「手荷物ルールが厳しい」のに加え「プレハブで駅から離れたターミナル」「搭乗ゲートが遠い」「発着時間帯が早朝や深夜」など、不便さも否めない。だが、顧客に数千円での飛行機移動を提供している。明るい色のコーポレートカラーは旅のワクワク感を抱かせた。乗るたびに新たなグッズを提供するといったこだわりも感じられる。

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