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「イオンお買物アプリ」、1552万会員に「170項目の趣味嗜好データ」付与 AI使った“パーソナル販促”の全容

» 2026年08月25日 07時00分 公開
[平 行男ITmedia]

 買い物民の味方、スーパーマーケット。生活に必要なものが一通りそろうため便利な一方で、大量の商品から必要なものを探すのは意外と骨が折れる。いつしか、必要最低限のものだけ買って帰る――そんなケースがありがちだ。

 これは、小売業にとって長年の課題だ。多様化する買い物ニーズに応えるため、品ぞろえを増やせば増やすほど選ぶ側の負担は増す。店頭ポップや折り込みチラシで情報を一律に届ける手法では、個々の関心に向き合えない。

 「イオン」「イオンスタイル」の屋号で、食料品から衣料品、ヘルス&ビューティーケア商品までを扱うイオンリテールは、この課題の解決に「自社アプリ」と「AI」で挑んでいる。

 6月末時点で「イオンお買物アプリ」の会員数は約1552万人。その会員一人一人に、170項目の趣味嗜好情報を付与して、販売促進施策に生かしている。クーポンを約700万通りに出し分ける、AIで“買い物リスト”を提案するといった取り組みが奏功し、目覚ましい成果を上げている。

 イオンリテールが仕掛けるアプリ×会員データ×AIを活用した施策について、運用を手掛ける同社の田中香織氏(リテールメディア推進部長)が明かした。

photo イオンお買い物アプリ(編集部撮影)

本記事は、グーグル・クラウド・ジャパンが主催したイベント「Google Cloud Next Tokyo」(7月30日、31日開催)の講演セッションから「AIで『探す手間』を『選ぶ楽しさ』へ。実店舗とデジタルが創る1500万人の1to1体験」を取材したもの。


「イオンお買物アプリ」利用者、客単価がピカイチ

 イオンリテールは、顧客との接点を強化するために、イオンお買物アプリを2017年にリリースした。要件定義から開発、日々の運用までを自社で一貫して手掛けている。

 注目すべきは会員の質だ。電子マネー「WAON」やクレジットカード「イオンカード」といったイオングループの会員基盤と比べて、お買物アプリの利用者は月間の客単価が最も高いという。

 もっとも、アプリは当初から今の姿だったわけではない。田中氏は「以前はクーポンやチラシなど、直接的なインセンティブが中心だった。売り場でレジに並ぶときに、クーポンは何かあったかなと開く。そういうアプリだった」と振り返る。

 そこで同社は、値引き情報だけでなく、商品の価値や新たな気付き、参加型キャンペーンといった「楽しさ」を届ける方向へアプリを作り替えていった。アンケート調査では、買い物前にアプリを開く会員が約64%に達したという。来店前に買い物の内容を考える機会を、アプリ側から生み出せた形だ。

photo イオンリテールの田中香織氏

1552万会員に「170項目の趣味嗜好データ」付与、販促施策に活用

 アプリ刷新の中核に据えたのが「AIの活用」だ。AIを使った取り組みは、大きく3つある。

  1. クーポンの1to1レコメンド:会員の嗜好に合わせた「おすすめクーポン」を約700万通りで出し分ける
  2. バナーの1to1レコメンド:ホーム画面のバナーの並び順を約200万通りで最適化する
  3. 「いるかもリスト」の自動生成:購買サイクルから、そろそろ必要になりそうな商品を提示する

 これらを支えるのが、会員一人一人に付与した170項目の趣味嗜好情報だ。商品軸だけでなく、食や調理に関する意識、育児や家事への意識、パーソナリティーや価値観といった項目までスコア化する。イオンリテール独自の設計だという。

 会員データを用いた販売促進施策のための計算は、膨大な規模になる。月間約300種類あるクーポンを、約1500万人の会員に出し分ける場合、掛け合わせたデータ量は約45億件に上る。この処理を数分で終える基盤として同社が選んだのが、米Googleが提供する「Google Cloud」内にあるデータ分析基盤「BigQuery」、サーバレスのコンテナ実行環境「Cloud Run」、生成AI「Gemini」だった。

 田中氏はGoogle Cloudのサービスを「巨大なデータを扱う計算処理を非常に高速で完了できる。日々増加し続けるデータにも柔軟に対応できる点で助かっている」と評価する。

 運用負荷の軽減も大きい。同社は年間52週でセールを組み立てており、ブラックフライデーや初売りといった大型セールのたびに「サーバが持ちこたえるか」「増強はどの程度必要か」などを事前に見積もっていた。Google Cloudを使うことで「そうした作業からも心理的な負担からも解放された」という。

photo 170項目の趣味嗜好スコアを個々の会員に付与(出所:イオンリテールの講演資料)

会員本人も気付かない「実はこれが欲しかった」商品を提案

 会員ごとにお薦めのクーポンを出し分ける「1to1レコメンド」の仕組みはこうだ。会員の購買履歴やアプリの操作履歴、属性から趣味嗜好スコアを算出する。商品についても、名称やWeb検索の結果などから特性をスコア化する。両者の類似度を計算し、スコアが近い商品を上位から並べる。

 クーポン配信時のポイントは、スコアが近い順に並べたうえで「その商品をまだ買っていない会員」を絞り込む点にある。会員と商品のスコアが類似しているのに、購入実績がない商品こそ、会員本人も気付いていなかったニーズだと捉えられるわけだ。

 例えば「睡眠の質の向上にこだわり、肌触りの良いインナーを好み、防犯・防災を重視する女性会員」がいたとする。順当なレコメンドであれば「睡眠に資する栄養剤」「着心地を重視した服」「備蓄用食品」を推薦する。一方、イオンリテールのシステムが「実はこれが欲しかった」につながる枠として提示したのは、糖質を抑えた「フィナンシェ」「ひとくちドーナツ」「羽毛掛け布団」だった。

 「過去に買ったものをお薦めする直接的なレコメンドだけではなく、お客さまの潜在的なニーズにアプローチできるのではないか。日々の義務的な買い物も、選ぶ楽しさや新たな発見に変えていきたい」と田中氏は語る。

photo 趣味嗜好スコアと商品の特性スコアの類似度からレコメンドを組み立てる(出所:イオンリテールの講演資料)

クーポン利用が2.1倍に データ活用の成果が続々

 趣味嗜好スコアを生かした施策の効果は、数値に表れている。かつて、バナー広告の掲載順序はどの会員も同じだったが、嗜好性に基づいて並べ替えたところ、約70%のバナー広告でインプレッション数が改善した。ECサイト関連のバナー広告で紹介した商品の売り上げは1.3倍に増えたという。

 クーポン施策では、レコメンドしたクーポンの使用回数が2.1倍に増加した。さらに、そのクーポンを使った会員の2人に1人が、これまで買ったことのない商品を購入していた。

photo バナー広告とクーポンの1to1レコメンドの効果(出所:イオンリテールの講演資料)

AIが買いどき伝える「いるかもリスト」 開発者のこだわりは

 買い忘れを防ぐ「いるかもリスト」も成果を上げている。会員と商品の組み合わせごとに購買間隔をAIに学習させ、次回の購入予測日を算出する仕組みだ。同じ洗剤商品でも、会員によって消費のペースは異なるため、通知のタイミングが変わる。リストに表示された期間中に実際に購入された割合は約46%、米やペットフード、家事消耗品といった必需品に絞ると約57%に上った。

 機能の名称にもこだわった。「『買い物メモ』にすると、必ずこれを買わなければという気持ちになってしまう。少し緩くして『これ買うかもね』『いるかもね』という名称にした」(田中氏)

 同社が描く将来像は、デジタルと実店舗の融合だ。自宅でアプリを見ながら買い物の計画を立て、その日の都合に応じて来店するか、ネットスーパーを使うか、店舗で商品をピックアップするかを選べる状態を目指す。

 「AIによる1to1のパーソナライズをさらに進化させていく。アプリを使えば使うほど、お客さまにとってより便利に、よりお得に、そして選ぶ楽しさも広がる体験を作り上げたい」

 義務的な買い物は迷いを減らして手早く終わらせ、日常の中に新しい出会いを増やす。田中氏はそう述べて講演を締めくくった。

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