土肥: 開発にあたっては、筆の角度に問題があると見ていた。最初のサンプルを見ると、完成品とほぼ同じ構造になっているので、開発にはそれほど苦労しなかったのでしょうか?
中井: いえ、そういうわけではないですね。筆の長さや太さをどうするのか、角度をつけた筆をどのくらいの長さにするのか、筆の弾力をどうするのか。完成度を高めるために、何度も試作を重ねました。
最も苦労したのは、細筆の開発でした。左利きの人は筆圧が強くなる傾向があるので、強く書いても、細筆が耐えられるのか。また、細い線をきれいに書けるのか。こうした点を調整するのに、製品化までに1年半ほどかかりました。
土肥: これまでになかった製品が完成して、これで一件落着といったところでしょうか?
中井: いえいえ、まだまだ課題がありまして。手づくりで製品を完成させましたが、これを実際に市場に出すとどうなるのか。手づくりでは製造コストが高くなるので、どうしても販売価格も高くなってしまう。そうすると、消費者から「特別な道具」と見られてしまうのではないか、という心配がありました。
右利き用の筆はたくさん並んでいて、低価格のモノもある。その横に、左利き用の高価な筆が1種類だけあれば、消費者はどのような印象を持つのか。「自分は左利きなので、ほしいけれど、価格が高いのであきらめるか」という人が出てきますよね。
では、価格を抑えるにはどうすればいいのか。手づくりではなく、大量生産でなければいけません。そのために、素材などを見直していきました。
土肥: 10人に1人は、左利きですよね。安価な筆を販売すれば、利益を確保できるのではないか、と見込んでいたのでしょうか?
中井: この筆だけで、十分な利益を確保できるとは考えていません。昔と比べて、左利きの子どもが右利きに矯正されることも少なくなりました。
ただ、書道教室に通うと、いまでも右手で書くように指導される子どもはまだまだ多いんですよね。とはいえ、「じゃあ、この筆を買って左手で書いてみよう」という人が増えるのは、まだ先なのかなと思っています。
では、なぜ開発したのか。これまでになかった製品を開発する。困っている人がたくさんいて、その課題を解決する。そうしたことにこそ価値があるのではないかと考え、製品化に至りました。
なぜファミマの「1998円腕時計」は完売したのか “ちょうどいい一本”がササった理由
東横インの「47都道府県バッジ」が人気 富士山は静岡か山梨か、小さな争奪戦
なぜ、1000円超の分度器が人気なのか 測定メーカーがこだわった「4つのポイント」
音楽のヤマハが「あえて聞こえにくくする」謎音声 オフィスや病院で導入進む、逆転の発想Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング