課金の側でも変化が起きている。ベニオフ氏は自社の弱点をこう認めた。
「われわれはいまだに、ある意味で旧来のユーザー単位の課金モデルに囚われている」
現在は利用者単位、エージェント単位、消費量単位、そして成果単位まで、顧客が選べる形にしている。取引の成果ではなく事業の成果、つまり「売上高をこれだけ増やしたから、分け前をくれ」という契約こそが、次の世代だというのがベニオフ氏の主張である。
数字の裏付けもある。ミゲル・ミラノ(Miguel Milano)氏によれば、Agentforceの受注は前年から倍増し、その半分は既存顧客が「Flex Credit」を使い切って買い増したものだった。
本番稼働の有料顧客は2000社増え、前四半期比70%増となった。試験導入の在庫ではなく、消費してまた買う循環が回り始めたことを示す。ミラノ氏はまた、営業・サービスの知識労働者のうち上位エディションに移行済みなのはまだ5%にすぎず、移行時には60〜80%の価格上乗せが取れると述べた。席が減っても単価で取り返す、というのが当面の設計である。
もっとも、決算の見栄えの良さには、割り引くべき部分がある。1株利益は調整後で5.90ドルと、市場予想の3.27ドルを大きく上回った。だが、そのうち2.53ドルは、Anthropic株の評価益を含む戦略投資の利益によるものだ。純利益を押し上げた戦略投資益は、26億ドルに達した。本業だけで見た1株利益は3.37ドル程度で、予想を上回る幅はごくわずかにとどまる。
成長率も同様である。11%増の売上高には、買収したデータ統合ソフトの米Informatica(インフォマティカ)の4億5600万ドルが含まれる。これを除くと6%台半ばの計算になる。ワシントン氏自身、Agentforce、Data 360、Slackの好調が「ライセンス収入全体の変動を相殺している」と述べ、統合・分析分野の逆風を認めた。通期のフリーキャッシュフロー成長率見通しは、4〜5%に据え置かれている。
そして、Salesforce側の証人として登場した農業バイオ企業である米Ohalo(オハロ)の創業者デイヴィッド・フリードバーグ(David Friedberg)氏が、最も正直な留保を口にした。
同氏は自らを早くからの「SaaSの死」論者だと認めた上で、AIに淘汰されるのは「業種特化型のSaaS」だと語った。実際に同社では、業種特化ソフトを全て捨て、内製に切り替えたという。一方で、横断的なプラットフォームは他の機能を周りに作れる分、むしろ価値が上がるという。
死んだのはSaaSではない。瀕死状態にあるのは、標準化された業務フローを売るだけの垂直型ソフトと、人間が画面を見ることを前提にした課金モデルである。Salesforceの四半期は、記録と権限を握る側がまだ有利だと示した。ただしそれは、インタフェースの主導権を、AIモデル側に譲る覚悟とセットになっている。
画面を明け渡す戦略が成り立つかどうかは、外部のインタフェース経由で使われた分から、Salesforceが実際に金を取れるかにかかっている。その方法は、まだ決まっていない。9月のDreamforceと投資家向け説明会が、最初の答え合わせの場になる。
本記事は、エクサウィザーズが運営するAI新聞内の記事「『SaaSの死』は来なかった Salesforce決算が突きつけた三つの論点」(2026年9月1日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。
湯川鶴章
AIスタートアップのエクサウィザーズ AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。17年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(15年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(07年)、『ネットは新聞を殺すのか』(03年)などがある。
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