例えば、前出の寿湯ではアパレルショップ「BEAMS」とコラボした壁画を描いたり、「牛乳石鹼」とコラボしたオリジナル薬湯を用意したり、近所の蕎麦屋とコラボしたりするなど、これまで銭湯が主なターゲットとしてきた「近所の人」以外の層を取り込む努力をしている。
こういう盛り上がりもあって、銭湯市場は拡大している。帝国データバンクによれば、銭湯業界の2025年度の売り上げ高は1200億円前後と、コロナ禍以降で最高水準。また、業界の上場企業である極楽湯ホールディングスも2026年3月期連結決算で、過去最高益をたたき出している。
「昔ながらの銭湯」の倒産や廃業に歯止めがかからない一方で、新しいプレーヤーが参入したり、新業態が台頭したりしている。危機に直面した「昔ながらの銭湯」の中には、生き残るために「現状維持」ではなく「進化」の道を選ぶところもあり、新たな顧客を呼び込み、市場が拡大している。
つまり、ちょっと広い視野で見てみれば、「銭湯の激減」も寂しいことばかりではなく、「産業の新陳代謝」が促進されているので喜ばしい側面もあるのだ。
このような話を聞いても、何やら釈然としない人も多いかもしれない。
日本は創業した事業が未来永劫続くことが「善」であり、倒産や廃業は「悪」という考えが根強く、「産業の新陳代謝」という概念すらもあまり浸透していない。それを示すデータを文部科学省 科学技術・学術政策研究所が出している。
日本、米国、英国、ドイツ、フランスという先進国の2022年の開業率と廃業率を見ると、日本が最も低い水準にある。多くの国で開業率が10%を超える一方、日本は3.9%にとどまっている。廃業率も、多くの国が9.5%以上であるのに対し、日本は3.3%となっている。
つまり、日本は他の先進国と比べても、「既存企業が長く存続する一方、新しい企業もあまり生まれない」という特徴がある。そもそも社会に根付いていない概念を、受け入れるのは容易ではない。
そのため、日本では「倒産が増えている」と聞くと、「物価高騰が悪い」「税金が高い」「政治が悪い」といった、他責的な議論になりやすい。
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