この半年、メディアの見出しを飾ったのは「AIモデルと開発企業の興亡」「安全保障や政治」「AI脅威論」などの話だった。
しかし、その裏で、企業のAI導入が着実に進んだことを見落とすわけにはいかない。特にAIエージェントの導入や業務利用が一気に広がった。そうした企業では、AWSなど“ビッグテック”のクラウド上で、AIエージェントを本番運用するケースが相次いだ。
AWSが7月28日に開いたイベント「AWS Bedrock LLM Day Japan」(開催報告)で、NECの担当者は、Anthropicの業務用AI「Claude Cowork」を2週間で本番環境に構築し、12万人規模で全社展開した事例を紹介した。AI基盤には、AWSの「Amazon Bedrock」を採用。Anthropicのシステムを使うのではなく、AWSを選んだのは、データを国内で保管するという要件を満たせるのがBedrockを使う場合だけだったためだという。
同じイベントで丸紅は、エージェント実行基盤「Amazon Bedrock AgentCore」上で2つのエージェントを本番運用していると説明した。4月1日に開発を始め、16週後には利用者が619人に達した。
Microsoftのクラウドサービス「Microsoft Azure」では、スペインの通信大手Telefonica(テレフォニカ)が、AI開発基盤である「Microsoft Foundry」を全社のエージェント基盤の中核に採用した。第1弾のエージェントは、通信会社にとって最も複雑で戦略的な領域とされるネットワーク運用を担うという(7月9日のMicrosoftの発表より)。
Googleが提供するクラウドサービス「Google Cloud」では、ゲーム会社のスクウェア・エニックスがAI開発基盤「Gemini Enterprise Agent Platform」(旧Vertex AI)を採用した。8月の「Google Cloud Next Tokyo 26」の基調講演では、ゲーム「ドラゴンクエストX オンライン」内の対話型AIキャラクターとプレイヤーがコミュニケーションを取るデモンストレーションが紹介された。
いずれも公開事例の一つにすぎない。AI導入の進度には、社内の体制づくりなどAI以外の要因も影響しているだろう。ただ、AWS、Microsoft、Googleいずれのクラウドを使っている企業でも、AIエージェントを自社の業務や製品の上で動かす基盤作りが進んでいる点は共通する。
AIを導入する際、企業が開発元と直接契約せず、クラウドサービスを介して利用するのはなぜか。AIモデルの性能や価格、既存の取引関係など、要因はさまざまだろう。そもそもAI基盤を一から構築するのは難しいという問題もある。
本稿で注目したいのが「社内の手続き」だ。多くの企業では、新しいクラウドサービスを使う前に、契約条件やデータの保存場所、社員IDとの連携について、情報システム部門の審査を通す必要がある。
例えば、データの保管場所について「国外に出したくない」というニーズに対しては、OpenAIは2025年5月から、企業向け「ChatGPT」などで会話やファイルを日本国内に保存できるようにしている。ただ、問題は機能の有無より手続きにある。新たなAIサービスの契約は新たな取引先との契約になり、クラウド審査は一からやり直しになる。有望なモデルが数カ月単位で入れ替わる中、そのたびに審査を回すのは現実的ではない。
これに対し、すでに使っているクラウドサービスを経由すれば、さまざまな基盤モデルを使い分けつつも、既存の契約やID、ログの仕組みを引き継げる。
Anthropicのモデルは、Amazon BedrockやGemini Enterprise Agent Platform、Microsoft Foundryで提供されている。GPT-6 Astraも、AzureとBedrockで利用可能だ。最新モデルは、いつものクラウドと同じ窓口から使える。1社のAIツールに依存していないため「もしAnthropicのモデルが提供停止になったら、Azure上でGPT-6 Astraに切り替えればいい」というリスクヘッジにもなる。
ただし、クラウドサービスを介して使うには注意点もある。例えば、データの保存場所が必ず国内になるとは限らない点だ。Anthropicのモデルを「Microsoft 365 Copilot」で使う場合は「国内で処理を完結させる」という約束の対象外になっている。Microsoft FoundryでFableやMythosを使う場合も、Azureの外で処理される可能性がある方式に限られる。確認は、モデルや機能ごとに行う必要がある。
AIモデルを巡って激動の半年が過ぎる中、足元ではAIエージェントの業務利用が進んだ。その多くは、クラウドの上でエージェントシステムを組むというものだ。スピーディーな導入を目指して取り組もうとしている企業は、契約済みのクラウドで使えるモデルを洗い出し、モデルや機能ごとにデータの処理場所と出力の傾向を確かめるところから始めるのがよいかもしれない。
NEC、先進AI「Claude Mythos」ついに導入 Anthropic主導“セキュリティ防衛連合”で、何ができる?
発表の2日前に決まった――NECとAnthropicが“電撃的協業” 3週間のスピード協議の舞台裏
NEC×Anthropic協業は「想像以上の反響」 社長対談で語られた“日の丸AI”の戦い方【一問一答】
主戦場が変わった――“AIによるAI開発”現実に 「新モデルが毎月登場」の裏側、KDDI傘下のELYZAトップに聞く
総額2.3兆円、千葉市に巨大な「AIデータセンター」建設へ 発電大手JERA参画の“ドリームチーム”、勝機どうつかむ?Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング