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「人工雷」で肥料を生み、キュウリでAIを育てる 福岡の100年商社「welzo」が挑む農業DX(1/4 ページ)

» 2026年10月09日 07時00分 公開
[河嶌太郎,ITmedia]

 熟練農家の高齢化による「匠(たくみ)の技」の喪失と、原料の97%以上を輸入に依存する肥料調達リスク――。

 日本の食料安全保障を脅かす弱点に、AIと「人工雷」(プラズマ)という最先端テクノロジーを武器に真正面から挑んでいる企業がある。福岡市に本社を置く、1921年創業の老舗農芸専門商社「welzo」(ウェルゾ)だ。

photo welzoが福岡市西区今津に開設した「welzo研究農場」(以下撮影:河嶌太郎)

 同社は九州大学などとの産学連携の下、高電圧のプラズマ放電を用いて空気中から“その場で”肥料を生成する技術や、職人の勘や経験といった「暗黙知」をAIでデータ化し、誰もが1年目から高品質な作物を再現できる自動制御システムの開発を急ピッチで進めている。

 手っ取り早く稼げる「大規模量産」の誘惑を断ち切り、あえて困難な道を選んだ100年企業の金尾佳文社長には、どのような勝算があるのか。日本の農業の常識を覆し、世界市場を狙う「アグリDX」の最前線に迫る。

photo welzoの金尾佳文社長

手軽な「規模拡大」を拒んだ、創業100年商社の決断

 「北海道のように大規模な農地で加工用の原料野菜を作れば、ロスも少なく手っ取り早く利益が出る。なぜwelzoはそれをやらないのか」

 5〜6年前、周囲からそう問われていたと振り返るのは、welzoでR&Dを率いる古賀正治研究開発部長だ。

 ポテトチップス用やカット野菜用などの加工向け野菜(原料野菜)は、外観の規格が緩く大面積で機械化しやすいため、ロス率が非常に低く、高い利益率を確保しやすい。1921年創業の老舗農芸専門商社である同社にとっても、大規模な原料野菜ビジネスへの参入は手軽で魅力的な選択肢に見えた。

 しかし、同社の金尾佳文社長が下した決断は正反対だった。「手軽に稼げる道ではなく、自社グループが持つ熟練の栽培技術をデジタル化し、誰でも継承できる状態にする」道を選んだ。

 同社グループには、ハウス栽培分野で高度な栽培指導技術を持つジャット(大阪市)をはじめ、植物の状態を見極めて最適な環境を与える「匠の技術」が存在する。だが、そうした高度な栽培は熟練者の勘や経験という「暗黙知」に強く依存しており、新規就農者が参入しても再現できず、3年ほどで離農してしまう大きな要因となっていた。

 目先の利益を追って安易な量産に走れば、熟練者の技術は途絶え、職人技を要する生鮮作物の生産現場は衰退の一途をたどる。「熟練技をAIとデータで形式知化し、1年目の新規就農者でも高品質な作物を安定して作れるインフラを構築する」――金尾社長のこのビジョンから、老舗商社による「農業のデジタル化」への挑戦が始まったのだった。

photo welzoでR&Dを率いる古賀正治研究開発部長
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