「本社にこもっている経営者はダメ」 セーレン・川田達男会長が徹底する「現場主義」:セーレン・川田会長の革命【後編】(3/3 ページ)
倒産寸前だったセーレンを再建し、日本を代表する総合繊維メーカーに育て上げた川田達男会長。川田氏の成功の要因となったのは、経営トップになってからも現場主義を貫き通したことにほかならない
毎日工場へ通っては、社員と対話を繰り返した
前回の記事にもあるように、2005年にセーレンは「再生不可能」と言われたカネボウに手を差し伸べ、繊維事業を買収した。事業統合に際し、一番の難所は「人」だった。福井県鯖江市と滋賀県長浜市(一部、山口県防府市)の工場に、計800人以上いた社員をどうやって取り込んでいけるかが鍵となった。
さらに厄介な問題もあった。
「確認ミスで、工場の社員はカネボウの労働組合に入ったまま、セーレンの社員になってしまったのです。彼ら、彼女らは、セーレンに買収されると何をされるか分からない、対抗しないといけないという不安を抱えていたことでしょう」
旧カネボウの社員の気持ちを懐柔するために川田氏がやったこと。それは、全社員に会うという、実にシンプルなものだった。毎日午後5時以降に工場へ訪れては、全員と話をして、セーレンのことを理解してもらう。意識や価値観の共有のためには、何度も会って対話をした。その結果、1年後にはカネボウの労働組合から脱退し、名実ともにセーレングループの社員となった。
「結局、現場の人がその気になってくれるかどうかなんです。エネルギーはいりましたが、最終的にうまくいきました」
ただし、意識の共有だけでは足りないと川田氏は強調する。成功体験を示すことが現場とのきずなを強固にするのだという。
「一緒に成功体験を作っていくことを心掛けました。一つ成功すると、またそこでモチベーションが上がります。小さいことでも成功の積み重ねが、最終的には大きな成果に結び付くのです」
信頼を得るには、成功体験を示し、共に味わうことに尽きる。そこから社員は学んでいくからだ。裏を返せば、たとえ一生懸命やっても、成功しなければ誰もついてこない。ただ言っているだけの人になってしまう。
「成功体験は非常に説得力があります。『不可能を可能にするのがわれわれの仕事』だという合言葉のもと、土日もなく走り回り、必死に成功体験を積み重ねていきました」
このときの奮闘が、同社のビジネスの礎になっていることは間違いない。
現場主義を掲げる企業は多い。セーレンが成し遂げた事業成長も、現場なくしては不可能だったことは明白だろう。今でも現場にこだわる川田氏の言葉と実践から、ビジネスパーソンが学ぶことは多いはずだ。
著者プロフィール
伏見学(ふしみ まなぶ)
フリーランス記者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。
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