「本社にこもっている経営者はダメ」 セーレン・川田達男会長が徹底する「現場主義」:セーレン・川田会長の革命【後編】(2/3 ページ)
倒産寸前だったセーレンを再建し、日本を代表する総合繊維メーカーに育て上げた川田達男会長。川田氏の成功の要因となったのは、経営トップになってからも現場主義を貫き通したことにほかならない
現場社員が社長就任を喜んでくれた
川田氏が現場にこだわるのは、もともと自身が末端の現場経験を持つからだ。前回の記事でも述べたように、新人時代に工場配属になって以来、現場の強さをよく分かっており、現場の力こそが会社の命運を左右することも感じている。何より、川田氏も現場の社員に助けられたことが何度もある。以下に一例を紹介しよう。
1970年代初頭、新製品開発を担当することになった川田氏は、カーシートなど自動車の内装材に目を付ける。この分野に合成繊維を活用できないものかと。「すぐさま試作品を作りたい」と会社に働きかけたが、生産工場のトップからは許可が降りなかった。その様子を知った、かつて一緒に働いていた工場の仲間たちがこっそり作業を手伝ってくれたのだった。
こうした体験は、川田氏の現場に対する信頼をますます高めることとなった。社長になっても現場との関係性は変わらない。むしろ社長就任時、いの一番に応援してくれたのが、工場をはじめとする現場の社員たちだった。
「ずっと一緒に仕事をしてきた自分たちの仲間が社長になったというので、とても喜ばれましたね。社長になってからも全然偉くはないですよ(笑)。社長と社員、上司と部下の関係ではまるでなかったし、引き続き社長兼営業担当者として、ああでもない、こうでもないと、現場で共に仕事をしていましたから」
現場の思いを背に、社長になった川田氏はまい進した。まず手をつけたのが、企業文化や風土の改革だ。具体的には、夢を共有し、社員の一体感を高めるために、新しい経営理念を作り上げた。ただ、ここまではよくあること。川田氏が工夫したのは、現場主義の視点をきちんと取り入れたことである。
「社長の方針や経営理念には、難しい言葉で語っているものが多いです。俺は頭がいいんだよと言わんばかりに。そんなのは社員が聞いても分からないですよ」
新生セーレンの経営理念は、「のびのび・いきいき・ぴちぴち」だ。常に新たな発想や自分の役割を明確にするという「自主性」、不可能を可能にしたり、問題を解決したりすることが仕事だという「責任感」、そして、それをどのように顧客貢献や成果に結び付けるのかという「使命感」の3つをこのフレーズに凝縮した。
「『わっしょい、わっしょい』でもいいと思いました。聞いただけで誰もがすぐに理解できて、共有できるものが必要だったのです。例えば、具体的な夢に『ボーナス100万円』を示したりもしました」
フレーズを作って終わりではない。社内に浸透させるため、現場を回っては、社員一人一人に直接伝えていった。
常に現場に身を置き、社員と対話をすることで、意識の共有を図っていく。川田氏のこの現場主義の威力がいかんなく発揮されたのが、カネボウの繊維事業の統合だった。
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