北大阪急行延伸で「箕面」が激変 あえて“町外れ”に地下鉄を呼び込んだ、これだけの理由:宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く(3/3 ページ)
北大阪急行電鉄(以下:北大阪急行)千里中央駅〜箕面萱野駅(約2.5キロ)間が、2024年3月23日に延伸開業した。箕面市に、はじめて地下鉄路線が到達したのだ。この延伸で「箕面」はどう変わるだろうか。
「資金確保完了」 箕面市ならではのお財布事情
しかし、いくら鉄道が必要であったとしても、公共投資に向ける目が厳しい状況では、並大抵のことで鉄道延伸は実現しない。箕面市は他地域にない“ウルトラC”をもって、北大阪急行の延伸を呼び込んだ。
実は、箕面市は公営ギャンブル(競艇)を主催しており、60年間で1600億円という莫大な収益金を受け取っている。自治体の懐具合を示す「財政力指数」を0.95(数値が1に近いか、高いほど良い。全国815市区で100位内)と高水準のまま保ち、教育や子育てに予算を費やせるのも、この収益金が原動力だ。
北大阪急行の延伸費用のうち、箕面市が負担する費用は282億円。ちょっとした地方自治体の年間予算総額に匹敵する額(同程度だと長崎県南島原市、山口県萩市など)だが、箕面市はこれを、鉄道延伸のためにため込んでいた積立金(通称「北急貯金」)と、競艇の収益金でまかなう資金計画を早くから示し、国・大阪府・箕面市民を説得の上で事業化・着工に漕ぎつけた経緯がある。
さらに、2048年度までかかるはずだった資金確保も、予想外に多かった競艇の収入を活用して、何と開業前年(2023年10月)に完了してしまった。鉄道延伸後の費用負担によって20年、30年単位で苦しむ自治体が多い中、箕面市はかなり計画性があり、かつ運が良いといえる。
なお、箕面市が競艇にかかわるようになった理由は、「競艇の発案者が箕面市(旧・豊川村エリア)出身」「その縁で、当時の箕面市長が率先して草創期の競艇を支えた」というものだ。この偶然と不思議な縁がなければ、北大阪急行の延伸はおろか、新しい市街地(萱野・船場)も生まれず、人口も減少局面に入っていたかもしれない。
何はともあれ、箕面市の40年がかりの悲願であった北大阪急行の延伸は実現した。これを機に、新駅が開業した新しい箕面、観光地の多い昔ながらの箕面、魅力的な2つの街を訪れてみるのもよいかもしれない。
宮武和多哉
バス・鉄道・クルマ・駅そば・高速道路・都市計画・MaaSなど、「動いて乗れるモノ、ヒトが動く場所」を多岐にわたって追うライター。幅広く各種記事を執筆中。政令指定都市20市・中核市62市の“朝渋滞・ラッシュアワー”体験など、現地に足を運んで体験してから書く。3世代・8人家族で、高齢化とともに生じる交通問題・介護に現在進行形で対処中。
また「駅弁・郷土料理の再現料理人」として指原莉乃さん・高島政宏さんなどと共演したことも。著書「全国“オンリーワン”路線バスの旅」(既刊2巻・イカロス出版)など。23年夏には新しい著書を出版予定。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
1時間に90本離着陸――なぜ、羽田ばかり超過密に? 「第三空港」「成田リニューアル」の可能性は
北陸新幹線・敦賀延伸 迫る「対東京シフト」の大転換
2024年3月16日に北陸新幹線・金沢駅〜敦賀駅間が延伸開業する。新しい新幹線は、これまでの観光の需要に加えて、ビジネスでの出張移動なども期待されている。敦賀延伸で、福井県のビジネスパーソンの移動に変化が起き、さらに対首都圏シフトが進むのだろうか。
話し合い拒否で長引く「JR西VS.自治体」の攻防 「乗客1日13人」の芸備線、存廃の行方は?
臨海部と東京駅を“ボーン”とつなぐ「新地下鉄」 なぜ運営が「りんかい線」事業者に?
70億円の赤字想定 北陸新幹線・延伸ともに爆誕した「ハピラインふくい」の今後を占う
2024年3月16日、新しい鉄道会社「ハピラインふくい」の路線が開業した。ハピラインふくいの今後の経営環境は、課題が山積している。期待と不安が入り交じるハピラインふくいの今後を探りつつ、北陸3県ごとの第三セクター鉄道の課題についても整理してみよう。
京葉線の「通勤快速廃止」 責任は本当に鉄道会社だけなのか
東京駅から羽田空港がたった18分! 「羽田空港アクセス線」でどうなる? 京急・東京モノレール
東京駅〜羽田空港間を結ぶ鉄道「羽田空港アクセス線」(仮称)が、2023年6月から工事に入る。首都圏の広い範囲から羽田へ乗り換えることなくアクセスが可能に。現状移動を担う京急・東京モノレールへの影響はあるのだろうか。
ベンチャー航空「トキエア」 “したたか”な戦略も、就航延期を繰り返すワケ
航空会社「トキエア」が新潟空港〜札幌・丘珠空港で同社初の航路を開設する。その戦略は非常に“したたか”だが、何度も就航延期を繰り返す。背景には深い事情がある……。
東京BRTは巨大タワマン街「晴海フラッグ」の足になれるか 立ちはだかる4つの課題
総額648億円 JR東の赤字路線、原因は「収入が少ない」だけじゃない
大阪・金剛バス、なぜ全線廃止に? 自治体の責任と運転手の過酷な勤務実態
大阪府の南東部を拠点とする「金剛バス」が全線廃止。背景には、自治体の責任と運転手の過酷な勤務実態がある……。
「入社祝いで400万円」それでも足りないバス運転手 3つの元凶は?
北海道新幹線は「函館駅乗り入れ」なるか? 課題は山積み
北海道新幹線は「函館駅乗り入れ」なるか? 大泉新市長の元、取り組みが進められるが課題は山積み。どうなる?
北総鉄道、前年の“大幅値下げ”後に「赤字447億円」を完済 実現できた理由は?
北総線がピーク時の「赤字447億円」を完済。22年の10月に「通学定期を最大64.7%引き下げ」「普通運賃を最大100円引き下げ」という運賃改定に踏み切り、話題を呼んだ。なぜ今の今まで、劇的に運賃を下げられなかったのか。
100円稼ぐのに「海鮮丼」並みの経費…… 北海道・留萌から「鉄道消滅」の理由
2023年3月末、留萌市から鉄道が消滅する。かつては一大ターミナルだった「留萌駅」。なぜ消滅に至ったのか、乗り物全般ライターの宮武和多哉氏が解説する。

