更年期障害の中年社員と、どう向き合う? 経済損失は「男女で3.4兆円」:女性だけの問題ではない(3/3 ページ)
女性の就業率向上と就労期間の長期化に伴い、更年期障害による離職やパフォーマンス低下への対策が企業の重要課題となっている。更年期障害は女性特有の問題と認識されがちだが、近年では男性の更年期障害への認識も広がっている。イライラ、身体・精神の不調などが続く中で働く中年のビジネスパーソンに対し、企業が適切な支援をできれば、会社全体の生産性が高まるかもしれない。
同性上司でも「相談しづらい」 会社支援の3つの方向性
こうした実態を踏まえ、更年期症状がある女性社員に対する支援の方向性はどのようにあるべきか。調査では、職場における支援を「セルフケア」「ラインケア(上司による支援)」「ピアサポート(同僚による支援)」の3つの観点から分析した。
その結果、食事改善などのセルフケア、柔軟な働き方を認める上司のラインケア、情報提供や情緒的支援を行う同僚のピアサポートが、いずれもジョブパフォーマンスの向上に寄与することが判明した。
また、離職防止の観点では、上司による評価基準の明確化や健康重視の姿勢表明、柔軟な働き方の許容が効果的で、特に上司の配慮やケアにより継続就業意向が約2倍に高まった。一方で、職場での症状の軽視や理解不足は離職リスクを高める要因となっている。
調査では、更年期症状を自覚している人ほど、温度調整や食事改善、運動など積極的なセルフケアを実践していることも判明。セルフケアを促進するためには、本人の自覚を促すことが重要な第一歩となる。
そのために企業は、専門家への紹介や更年期診断チェックシートの社内公開など、従業員が自身の状態を客観的に把握できる機会を提供することが有効だという。
同僚や上司に相談しやすい職場環境づくりも重要だが、現状では上司への相談は1割程度、同僚への相談も2割未満にとどまる。
要長期治療レベルの女性の約6割が同性の上司にも相談しづらいと感じており、これは男性上司(約8割)との差が20ポイント程度と小さい。上司の性別にかかわらず相談のハードルが高い状況が明らかになった。
調査では相談を促す3つのポイントを提示している。更年期に関するネガティブな言動の予防、上司への信頼感の醸成、従業員の「ヘルプシーキング力(頼る力)」の向上だ。特に最後の点では、健康情報への苦手意識や評価への不安、症状を話すことへの羞恥心といった認知バイアスを、適切な知識提供で解消する必要があるとした。
「理解」から「行動」へ LINEヤフー、味の素の事例
更年期に対する具体的な取り組みを講じている企業もある。
LINEヤフーでは常務執行役員以上が全員「女性の健康検定」を受験し、上層部から現場への理解浸透を図っている。味の素では健康経営の一環として、食事・運動・睡眠を意識したセルフケアの習慣化支援や、全従業員向けの栄養教育を実施しているという。
「職場の理解が必要」という漠然とした課題に対し、今回の調査で具体的な支援の在り方が明らかになった。セルフケアから職場内支援まで施策は多岐にわたるが、企業には実行可能な対策から着実に進めることが求められる。
パーソル総合研究所の砂川氏は「今回明らかになった職場支援の要素は、全て『職場の理解』に関わるもの。これら一つ一つに目を向けて対策を講じることが、理解不足という問題の解決につながるのではないか」と述べた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
職場の「いつも偉そうな女性」はなぜ生まれるのか 多くのお局さまに共通している心理を専門家が解説
本連載は産業カウンセラーの川村佳子氏働く女性ならではの“お悩み”を解説するシリーズ。第1回目は、「いつも偉そうと言われてしまう40代女性」の心情、原因について掘り下げます。
窓際でゲームざんまい……働かない高給取り「ウィンドウズ2000」が存在するワケ
「ウィンドウズ2000」「働かない管理職」に注目が集まっている。本記事では、働かない管理職の実態と会社に与えるリスクについて解説する。
日本人はなぜこれほどまでに「学ばない」のか 背景にある7つのバイアス
学びの習慣があまりにも低い日本の就業者の心理をより詳細に分析すると、学びから遠ざかる「ラーニング・バイアス(偏った意識)」が7つ明らかになった。日本人はなぜこれほどまでに「学ばない」のか。
「管理職になりたくない」 優秀な社員が昇進を拒むワケ
昨今は「出世しなくてもよい」と考えるビジネスパーソンが増えている。若年層に管理職を打診しても断られるケースが見受けられ、企業によっては後任者を据えるのに苦労することも。なぜ、優秀な社員は昇進を拒むのか……。
「管理職辞退」は悪いこと? 断る際に重要な2つのポイント
昨今「管理職になりたくない」「管理職にならない方がお得だ」――という意見が多く挙がっている。管理職にならず、現状のポジションを維持したいと考えているビジネスパーソンが増えているが、管理職登用を「辞退」するのは悪いことなのだろうか……?
「ホワイトすぎて」退職って本当? 変化する若者の仕事観
「ホワイト離職」現象が、メディアで取り沙汰されている。いやいや、「ホワイトすぎて」退職って本当? 変化する若者の仕事観を考える。
時短勤務や週休3日が「働く母」を苦しめるワケ 働き方改革の隠れた代償
男性育休の促進、時短勤務やテレワーク、フレックスタイム制といった従来の制度をより使いやすくする動きが進んでいる。子育てをしながら働き続けるためのオプションが増えるのは良いことだ。しかし一方で、「これだけの制度があるんだもの、仕事も子育ても頑張れるでしょ?」という圧力に、ますますしんどくなる女性が増えてしまう可能性も。
忙しいのに……管理職層が「プレイヤー業務」も担うワケ
リクルートマネジメントソリューションズ(東京都港区)は、企業の人事担当者150人と、管理職層150人の合計300人に「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2023年」を行った。
女性活躍を阻む「管理職の罰ゲーム化」
もう令和なのに「飲み会セクハラおじさん」が減らないワケ





