「今年の新人は受け身だな」と決めつける前に、上司のあなたが自覚すべきこと:「キレイごとナシ」のマネジメント論(4/5 ページ)
「なぜ私は新入社員に嫌われているのか……」 ある課長が悩みを深めていた。
「自己成就予言」を防ぐ
レッテルを貼ることで生じる最大の問題は、そのレッテルが「自己成就予言」として働いてしまうことである。
自己成就予言とは、ある予測や思い込みが、それ自体の影響で現実になってしまう現象を指す。心理学者ロバート・マートンが提唱した概念で、「予言の自己成就」とも呼ばれる。
例えば教師が「この生徒は優秀だ」と思うと、無意識に多くの機会を与え、結果的にその生徒は優秀になる。一方「この生徒はダメだ」と思えば、期待しなくなり、その生徒は本当に成績が下がる。有名な「ピグマリオン効果」と呼ばれるものだ。
ある情報システム部門の課長は「あの新人はITに向いていない」と早々に判断してしまった。その結果、重要なプロジェクトから外し、単純作業ばかりを任せるようになった。新人は「自分には期待されていない」と感じ始め、やがて勉強もしなくなった。そして一年後、「やはりITに向いていなかった」と課長の予言は「的中」した。
しかし同じ新人が別の課長の下につき、「プログラミングは未経験だけど、料理のレシピに例えてコツを教えたら理解できるかも」と粘り強く教えられたら、結果は違っていたかもしれない。
「この部下はやる気がない」と思えば、重要な仕事を任せなくなる。すると部下も「自分には期待されていない」と悟り、実際にやる気をなくす。この悪循環を断ち切るためにも、アナロジー思考が必要なのだ。
「好きになれない仕事」だって、変えられる
そもそもアナロジー思考は、相手理解だけでなく、自分にも役立つ。
例えば「この仕事、どうしても好きになれない」という感情があったとしよう。そのとき「これまでに好きになったものって、どんなときだったっけ?」と振り返るのだ。
「部活の練習は嫌いだったけど、大会前だけは燃えてたな」
「勉強は苦手だったけど、誰かに教える立場になると真剣になれた」
こうした記憶をヒントに「いま目の前の嫌いな仕事も、似たようなパターンにできないか?」と考えてみる。
アナロジー思考とは、いわば「具体と具体をつなぐ橋」だ。その橋を架けることで、自分や他人を理解する視野が広がる。
日常の多くの場面でアナロジー思考は活用できる。例えば「この新入社員は、自分の子どもが運動会で緊張しているときとよく似ている」と考えれば、叱るよりも励ます言葉をかけるだろう。「この会議は、初めて参加するパーティーのようなものと捉えれば、全員が発言しやすい雰囲気づくりを心がけるようになるかもしれない。
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